翻訳|hydride
水素が負電荷をもっているとみなされる化合物をいう(水素化物イオンhydride ionはH⁻を意味し,H⁺とは厳密に区別されている)。また広く水素と他の元素との化合物一般を指し,H2Oなども含めて考えることもある。水素は希ガスを除くほとんどすべての元素と化合物を形成するが,その性質によりつぎの3種に大別される。
(1)塩類似型水素化物salt-like hydride MHn(nは1~3の整数値)の組成をもち,Mとしては周期表中左側の電気陽性の強いアルカリ金属およびアルカリ土類金属イオン,アルミニウムイオンAl3⁺,亜鉛イオンZn2⁺などが含まれる。水素化物イオンは電気的に陰性(H⁻とみなしうる)を示し,融解状態で電解すると陽極に移動し,水素ガスとなる。水と反応して水素を発生し,金属イオンの水酸化物を生ずる。一般に融点が高く,高温では金属と水素とに分解する。多くの溶媒に難溶である。テトラヒドリドアルミン酸リチウムLi[AlH4]のように2種の金属を含むものもある。しばしば強い還元性を示す。
(2)揮発性水素化物volatile hydride 気体状水素化物gaseous hydrideとも呼ばれ,フッ化水素HF,塩化水素HCl,水H2O,硫化水素H2S,アンモニアNH3など周期表中右側の電気陰性の強い元素との化合物がこの中に含まれる。水素原子は多くの場合,正の部分電荷をもち(ときには負の部分電荷をもつものもある。メタンCH4など),分子内の結合は共有結合的で強く,逆に分子間相互作用は小さくなる。そのため融点,沸点が低く,常温ではほとんどの化合物が分子状の気体となっているためにこの名称がある(H2Oは例外的に液体)。
(3)金属状水素化物metal-like hydride 侵入型水素化物interstitial hydrideとも呼ばれ,金属の格子のすき間に水素原子が侵入し,金属と固溶体を形成している化合物。周期表中中央の部分に属する元素との化合物に多くみられる。MHxの組成をもつが,xは必ずしも整数ではなく,化合物は一般に化学量論的ではない。Mとしては遷移金属元素,ランタノイド,トリウムなどが含まれる。固体で融解しにくく,不揮発性で,密度はもとの金属に比べて一般に小さい。化学量論的組成をもつ化合物でも,もとの結晶とは異なった結晶格子をつくる結果,金属がふつうの原子価をとらない場合が多い(クロム,ジルコニウム,鉄の水素化物CrH,ZrH,FeH6など)。このほかにゲルマニウム,ケイ素,インジウムの水素化物GeH4,SiH4,InH3などのように塩類似型と揮発性水素化物との中間的なもの,ニッケル,コバルト,銅の水素化物NiH2,CoH2,CuHなどのようにアルキル金属化合物の分解によって生ずるアルキル金属型水素化物などもある。
執筆者:大瀧 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
水素の二元化合物で,水素が陰性成分となるものをいう.広義には,H2S,NH3など水素が陽性成分となる場合も含め,水素とほかの元素との化合物すべてをいう.次のように分類される.【Ⅰ】非金属水素化物:ホウ素および周期表14~17族元素の水素化物.多くは共有結合性分子で,常温で気体のものも多く,融点,沸点も低い.ただし,炭素原子間の結合がある分子量の大きい炭化水素は例外である.水,アンモニアなど,分子間に水素結合が存在する場合は,予想より高い融点,沸点を示すこともある.同族元素の水素化物(広義)では,その元素の電気陰性度が低いほうがより不安定である.たとえば,HIはHClより,H2TeはH2Sより不安定である.【Ⅱ】金属水素化物:
(1)塩型水素化物;電気陰性度が1前後のアルカリ金属,アルカリ土類金属との水素化物(MⅠH,MⅡ H2)のHは,水素化物イオン H- となってイオン結合している.イオン半径の小さいBe,Mgの水素化物は共有結合性が強い.
(2)侵入型水素化物([別用語参照]侵入型化合物);電気陰性度が中間的な遷移金属の水素化物では,H原子または H- が金属格子のすきまに入っている.不定比化合物となることが多い.Pd,FeTi,LaNi5合金などは大量の水素を可逆的に吸収するので,水素精製や水素吸蔵合金として使われる.
(3)ヒドリド錯体;配位子ヒドリド H- が単独でBH4-,AlH4-などのように,または混合錯体としてほかの配位子とともに中心金属原子に配位したもの.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
水素は、希ガス元素を除くほとんどすべての元素となんらかの形の化合物をつくる。そして水素は相手元素の性質によって、正1価および負1価として、あるいは原子価には従わない組成の化合物をつくる。これらすべてを含めて便宜的に水素化物といっている(すなわち本来水素化物というときは、水素が陰性成分として存在するものをいうのであって、たとえば塩化水素HClや水H2Oなどは水素化物とはいわない)。前記のようにすべての水素の化合物を、便宜的に水素化物とするとき、塩類似水素化物、遷移金属水素化物、共有性水素化物の3種に分類することができる。ただしこれらの間の境界はあまりはっきりしたものではない。塩類似水素化物では水素はH-として存在し、結合はイオン結合的で、化合物の融点、沸点は高く、イオン結晶をつくる。共有性水素化物は、共有結合性で、水素は酸化数+Ⅰまたは-Ⅰで、分子性化合物をつくるため、融点、沸点は低い。遷移金属水素化物は侵入型化合物であることが多い。
[中原勝儼]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 水素は常温では比較的反応しにくい元素で,フッ素以外の元素とは反応しないが,塩素とは光の作用によって爆発的に反応する。高温にすれば多数の元素と化合し,ほぼ次の3種類の水素化物(ハイドライドhydride)をつくる。(1)揮発性水素化物 水H2O,アンモニアNH3,硫化水素H2S,ハロゲン化水素HX(X=F,Cl,Br,I)など,主として非金属元素の水素化物で,共有結合による分子から成り,融点,沸点が低い。…
… 水素は常温では比較的反応しにくい元素で,フッ素以外の元素とは反応しないが,塩素とは光の作用によって爆発的に反応する。高温にすれば多数の元素と化合し,ほぼ次の3種類の水素化物(ハイドライドhydride)をつくる。(1)揮発性水素化物 水H2O,アンモニアNH3,硫化水素H2S,ハロゲン化水素HX(X=F,Cl,Br,I)など,主として非金属元素の水素化物で,共有結合による分子から成り,融点,沸点が低い。…
※「水素化物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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