グリュンベルク(読み)ぐりゅんべるく(その他表記)Peter Grünberg

日本大百科全書(ニッポニカ) 「グリュンベルク」の意味・わかりやすい解説

グリュンベルク
ぐりゅんべるく
Peter Grünberg
(1939―2018)

ドイツの物理学者チェコ共和国(当時はドイツの保護領)生まれ。ドイツのダルムシュタット工科大学で博士号を取得後、ケルン大学特任教授などを経てユーリヒ固体物理研究所研究員。2007年「巨大磁気抵抗の発見」によって、フェールとともにノーベル物理学賞を受賞した。2007年(平成19)に日本国際賞を受賞している。

 電気を通す鉄などの金属は、磁石が近くにあると電気の流れを変える磁気抵抗という性質をもっている。巨大磁気抵抗は、わずかな磁場の変化に反応して電気抵抗が変化する現象である。1970年代中ごろ、日本の研究者が数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の絶縁体の薄い物体を同じく鉄の超薄膜でサンドイッチすると、外部の磁場に応じて抵抗が変わる現象を理論的に予測していた。しかし当時は、超薄膜の物質をつくるのはむずかしいうえ、極低温に冷却する必要もあるため実証するのは困難であった。1980年代の後半になって、ナノレベルの超薄膜をつくる技術が開発されたため、グリュンベルクは1988年に、鉄とクロムの3層の超薄膜をつくって磁場をかけ、電気抵抗を1%変化させることに成功した。

 同じころフェールは、電気を通す金属クロムの超薄膜と鉄の超薄膜を重ねることによって巨大磁気抵抗が実現する現象を発見した。厚さ1~3ナノメートルの鉄とクロムの超薄膜を60枚重ねたものを、マイナス260℃くらいまで冷やして磁場をかけると抵抗が半分になることを発見した。記憶装置ハードディスクHD)には、微小な磁石のN極S極として情報が書き込まれているが、この発見の原理を応用するとわずかな磁気の変化でも電気抵抗が変わるために超高感度の読み取りが可能になる。HDを小型化し高密度の情報を書き込むと磁石の力は弱くなるが、それを高感度で読み出すことが可能になった。この原理の発見によってコンピュータに使用されている記憶装置の小型化と大容量化への道を開いた。携帯できる小型の音楽プレーヤーが実現したのもこの発見によるものである。

[馬場錬成 2018年4月18日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「グリュンベルク」の意味・わかりやすい解説

グリュンベルク
Grünberg, Peter

[生]1939.5.18. チェコスロバキアピルゼン
[没]2018.4. ドイツ,ユーリヒ
チェコスロバキア生まれのドイツの物理学者。1962年ドイツ,フランクフルトヨハン・ウォルフガング・ゲーテ大学を卒業後,ダルムシュタット工科大学で修士号(1966)と博士号(1969)を取得。1972~2004年ユーリヒ固体物理学研究所の研究員,教授を務めた。1988年強い磁性をもつ金属と非磁性の金属を重ねた三層構造(鉄・クロム・鉄)の膜が,鉄層の磁化の状態の違いに応じて抵抗が室温でも 1%ほど変化することを発見した。金属多層膜に磁場をかけると電気抵抗が大きく変化する巨大磁気抵抗効果 GMR(→磁気抵抗効果)の発見により,磁気ディスクの読み取りヘッドの実現など,エレクトロニクス分野の発展に貢献。この業績により,2007年アルベール・フェールとともにノーベル物理学賞(→ノーベル賞)を受賞した。同年,シュテルン=ゲルラハ・メダル,ウルフ賞,日本国際賞も受賞。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android