古代メキシコの神。〈羽毛ある蛇〉あるいは〈高貴なる双子〉とも訳される。同名の人物として,トルテカ王国(トルテカ文化)第2代の王がいた。神としての起源は古く,前数世紀にまでさかのぼる。ケツァルコアトルの原型は水や農耕と関連する蛇神であったが,テオティワカン文化期(紀元前後-650)からは,〈羽毛ある蛇〉という竜のような架空の動物の姿で表現される。ショチカルコ期(650-1000)では,農業神のほかに,金星としての属性も付加された。さらにアステカ時代になると,原初の二神トナカテクトリとトナカシワトルが生んだ四神の一人として,兄弟のウイツィロポチトリと共に,宇宙の生成にたずさわった神として知られる。人類の創造やトウモロコシの獲得もこの神に帰せられている。また風の神エエカトルは彼の分身と見なされた。
人物としては,ミシュコアトルの子とされる。ミシュコアトルを族長とするトルテカ族が,900年ころ,メキシコ北部から中央高原へ移動して来て,クルワカンに定着した。その後,ミシュコアトルはショチカルコに近い地で,チマルマという土地の女性に子を生ませた。この子がのちにケツァルコアトルの名で知られるようになった人物である。彼の父は部下の裏切りにあって死亡し,母も出産がもとで死んだために,母方の祖父母に育てられた。このことが,ショチカルコの神を信仰するきっかけとなったのであろう。神の名を持つのはその神官という意味である。彼は父のかたきを討ち,さらに都をトゥーラへ移して,繁栄した一時期を画した。しかし戦いの神を信仰する部族の者たちとの間に反目が生じ,彼は都落ちし,東方の海岸で姿を消した。このできごとが,ケツァルコアトルの神と混同された形で,アステカ帝国に伝わっていた。皇帝モクテスマ2世が,1519年に東方の海岸に姿を現したスペインのエルナン・コルテス一行をケツァルコアトルの再来とまちがえた話は有名である。
執筆者:高山 智博
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古代メキシコの重要な文化コンプレックスで、(1)アステカ、トルテカなどの諸文化の宗教・神話において、民衆に文化を授けた神の名であると同時に、(2)10~12世紀に栄えたトルテカ王国に実在した、ケツァルコアトル神を信奉する神官王の名でもあり、さらに(3)古代メキシコのクアウティトランCuautitlánその他の地方でつくられた詩に歌われた文学上の主題の人物名でもある。「羽毛の生えた蛇」を意味する。
(1)の意味でのケツァルコアトルは、その起源を紀元前数世紀にまでさかのぼることができる。もともと農耕と縁の深い水神であったものが、テオティワカン文化(2~7世紀)において、「羽毛の生えた蛇」として人々の信仰を集め、ケツァルコアトルの神殿がつくられた。その後に続くショチカルコ、トルテカ、アステカ等の文化においてもケツァルコアトルは崇拝され、複雑な属性を備えた神格に変化していった。アステカ期(14~16世紀)につくられたナワトル語の諸テキストでは、ケツァルコアトルは、13層に分かれた天空の第4層に住む金星神に比定され、また最高神トナカテクートリとトナカシワトル(オメテクートリ、オメシワトルともいう)の生んだ4人の子の1人として、宇宙や人間の創造、さらにトウモロコシの獲得に携わった神としても描かれている。またエエカトルという風の神も彼の分身であった。
(2)の意味でのケツァルコアトルは、トルテカ人の首長ミシュコアトルの子であり、トゥーラに都を置いてトルテカ王国の繁栄を築き上げるとともに、文化神ケツァルコアトルの神官としてケツァルコアトル・トピルツィンを名のった。その後、軍神テスカトリポカを信奉する一派との闘争に敗れて東の海に去った。その際にこの王が再来を約したという伝説があったため、1519年征服者コルテスがメキシコに侵入したとき、ケツァルコアトルの分身とみなされたといわれている。なお、ケツァルコアトル神はマヤ文化にも伝播(でんぱ)し、とくにククルカンKukulkánの名で崇拝された。ユカタン半島北部のチチェン・イツァー遺跡には有名なククルカンの神殿がある。
[増田義郎]
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…北欧神話でも巨人ユミルの死後,骨から岩がつくられている。アステカ神話の勇神ケツァルコアトルは地下界ミクトランから男女の骨を探し出し,これを妻にひかせて粉とした後,自分の血を混ぜて人間を創造した。自分の肋骨からつくられた女(イブ)を見たとき,アダムは〈これこそ,ついにわたしの骨の骨〉と叫ぶ(《創世記》2:23)。…
※「ケツァルコアトル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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