日本大百科全書(ニッポニカ) 「創造神」の意味・わかりやすい解説
創造神
そうぞうしん
世界、人間、文化などを創造した神をいう。いわゆる未開社会に広がる神話のなかでは、創造神の手を借りることなく、自発的に万物が創造されていったという形式も多いが、一般に宇宙起源神話での活躍が目だつ。このうち創造神が単独で宇宙を創造する形式は、ニュージーランドの先住民マオリのイオ神の場合であろう。形もなく、親もいない、全存在の源泉という混沌(こんとん)とした創造神である。また、たびたび創造神と重複する機能をもつ至高神が、1人以上の副神の助けを借りて宇宙を創造する形式もあり、中央カリフォルニアのネイティブ・アメリカンであるポモの神話に登場するマルムダとクスクがこれにあたる。アルタイ地方の神話では太古の人間が、またブリヤート人の神話では水鳥が協力者となっている。北米ニュー・メキシコの先住民アコマの神話は、至高神ウチトシティが創造の第一段階を行い、協力者によって残りが仕上げられるという内容をもっている。同様のパターンは、ミクロネシアのギルバート諸島で語られるナアレアウ神の創造活動にも当てはまる。日本神話の場合も構造が複雑だが、伊弉諾・伊弉冉尊(いざなぎいざなみのみこと)の国生み神話はこの仲間に入れてもよさそうである。
次に人類起源神話における創造神の役割をみてみよう。宇宙起源の一部として語られることが多いため、先の分類を利用すると、創造神の単独行為は、ジャワ島民、ベトナム南部のブル人、アフリカのピグミー、東南オーストラリア・アボリジニーの神話にみられ、この場合、なんらかの物質(海、土、泥)から人類をつくりだしている。ただし物質を用いず、至高神グダトリガクウィットが考えただけでつくられたという、北カリフォルニアのネイティブ・アメリカンであるウィオットのような例もある。人類起源の神話でも創造神が協力者とともに行動する形式はあり、北西タイのカレン人の神話でも創造神が関与するのは第一段階であり、残りは彼が生み出した原人に任せている。一方、チュクチの人々の創造神とその敵対者タンゲンの関係にみられるように、内陸アジア西部から東欧にかけては、創造神が犬や悪魔らの対立者と葛藤(かっとう)を演じながら人類を創造するモチーフが広がっている。文化起源神話になると、すでに世界が創造されたことを前提にして語られ、文化英雄の活躍に焦点があてられるため、創造神の登場はまれだが、中国の盤古神話、インドのプルシャ神話で語られる、創造神の身体から動物、植物、思想、階級などが生まれたという例には注目すべきであろう。
[関 雄二]
『大林太良著『神話学入門』(中公新書)』▽『大林太良著『神話と神話学』(1975・大和書房)』