改訂新版 世界大百科事典 「ヤグルマギク」の意味・わかりやすい解説
ヤグルマギク (矢車菊)
cornflower
blue bottle
Centaurea cyanus L.
一般にはヤグルマソウとも呼ばれて春の花壇や冬の切花によろこばれているキク科の一年草。原産地はヨーロッパ東南部。高さ80~90cm,葉は長披針形で白い毛があり,多数分枝して茎頂に頭状花を単生ししだいに咲き下る。一重咲きの周辺花は舌状花ではなく管状花で,7~8枚の裂弁には大小があり,独特の花型を呈する。八重咲きは中心花もすべて発達した管状花で,扁球形を呈し,総苞は鱗(うろこ)状に苞片が重なっている。中心の管状花には抽出しためしべとおしべがあるが,指や昆虫の脚などがふれると刺激された葯から花粉が押し出される。花色は青藍色で代表されるが,園芸品種には紅,ピンク,白,えんじ色などがある。種まきは9~10月,寒さには強く一般には霜よけの必要はない。暖地では8~9月に寒咲種をじかまきして年末から冬に切花栽培をするが,ふつうは5~6月に開花する。鉢植や花壇のためには高さ20~30cmで咲く矮性(わいせい)種が用いられる。
ヤグルマギク属Centaurea(英名knapweed,hardhead,Spanish button)には500種もあるが,一年草ではニオイヤグルマ(スイート・サルタン)C.moschata L.(英名sweet sultan)やアザミヤグルマC.americana Nutt.(英名basket flower)が切花や花壇につくられ,とくに芳香の高いイェロー・サルタンC.sauveolens L.(英名yellow sultan)は切花の用に暖地やハウスで栽培されるが,排水よく管理しないと開花時に地際に発病が多い。多年草ではオウゴンヤグルマソウC.macrocephalaPuschk.が切花にされ,C.montana L.(英名mountain bluet)が山草としてつくられる。
執筆者:浅山 英一
伝説
ヤグルマギクの属名はギリシア神話のケンタウロスにちなむ。彼らのうち最も賢明なケイロンは,ヘラクレスに過って矢を射られ苦痛に耐えられず死を願ったという。これはヤグルマギクの花弁の形が矢を思わせることからの連想であろう。また青い花色に関しては,娘のペルセフォネを失ったデメテルが悲しみのあまり引き裂いた青い衣の断片からこの草が生じたためとする物語もある。ドイツでは皇帝ウィルヘルム1世がこれを愛し標章に用いた。花言葉を〈繊細〉とするのは,ヤグルマギクの青さに憧れて死んだ青年が花の精フロラの力でこの花に変身したという伝説による。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報