主として観光客を輸送する目的で山岳の景勝地に敷設された鉄道。学術的または専門的な用語ではないが、一般的に使われている。日本で登山鉄道として社名に冠しているのは箱根登山鉄道(小田原―強羅(ごうら)間15.0キロメートル)のみである。ヨーロッパではスイス、オーストリア、フランス、イタリアなどアルプス山系に数多くの登山鉄道がある。またアメリカのコロラド州のロッキー山系、インドのダージリン・ヒマラヤ鉄道も世界的に有名である。
箱根登山鉄道は最急勾配(こうばい)が80‰(パーミル、千分率。80‰は水平距離1000メートルに対し高さ80メートルの勾配)で、粘着運転(レールと車輪の摩擦で推進する運転)を行う鉄道としてはほとんど限度に近い急坂区間を有する。これ以上の急勾配になると、歯形軌条を敷設して、車両に装備した歯車がかみ合って空転防止をしながら登坂・降下をするラックレール式鉄道を採用する。ラックレールの方式としてアプト、リッゲンバッハおよびロヒャーなどがある。日本では大井川鉄道井川線のアプトいちしろ―長島ダム間がアプト式を採用している。歯形軌条による鉄道の最急勾配記録はスイスのピラトゥス登山鉄道で約500‰である。これ以上の急勾配を登坂する場合にはケーブルカーやロープウェー方式となる。
車両の動力方式はほとんどが電車であるが、スイスのブリエンツ・ロートホルン鉄道、オーストリアのアッヘンゼー鉄道などはいまなお蒸気機関車を使用している。アメリカのコロラド・スプリングズを起点とするマニトウ山登山鉄道はディーゼル動車による歯形軌条式である。全区間のほとんどが急斜面を登ることに終始する鉄道では機関車・客車が斜面にあわせて傾斜階段状につくられる。登山鉄道の特徴としては、直接急斜面を登ることのむずかしさからスイッチバックやループ線にして地形を克服しながら山麓(さんろく)から目的地の山頂あるいは観光景勝地点に到達する。信越本線の碓氷峠(うすいとうげ)越えの横川―軽井沢間(1997年廃止)やアメリカ、カナダのロッキー山脈越えの幹線鉄道については山岳線とはよぶが、一般的には登山鉄道とはよばない。南海電気鉄道の高野(こうや)線も50‰の急勾配が高野山口付近にあるが、登山鉄道とはよばない。
[西尾源太郎・佐藤芳彦]
傾斜の大きい線路条件下で車両を運転する鉄道のことで,広義には平野や盆地を隔てる山地をこえるもの,山頂をめざすゆきどまり型のものの双方を含むが,一般には観光客輸送手段としての後者をさす。幹線鉄道の急勾配線では長大トンネルを併用して高度上昇を抑える場合が多く,アルプスごえのサン・ゴタール(ザンクト・ゴットハルト,サン・ゴタールド)線やシンプロン線がその典型である。日本では上越新幹線や上越線での清水トンネルが著名である。1997年に廃止されるまで信越本線碓氷峠ごえの区間は67/1000(水平距離1000mに対し,高度67mを登る)勾配を含み,JR最急勾配を記録していたが,こうした幹線鉄道は登山鉄道には加えないのが普通である。
登山鉄道は1870年代以降スイスを中心にヨーロッパ各地でとくに発達し,粘着式(線路は普通の鉄道と同じであるが,強力な動力と特殊なブレーキを備えた車両を使う),歯軌条(ラックレール)式,鋼索鉄道(いわゆるケーブルカー)など,種々の急勾配克服手段が考案された。粘着式,歯軌条式では当初蒸気機関車を用いたが,20世紀になると登坂能力に優れた電車利用が一般化した。日本では1919年開業の小田原電気鉄道(現在の箱根登山鉄道)の80/1000(最急)が粘着式の好例である。碓氷峠ごえで使用したアプト式は歯軌条式の一例であるが,1963年に廃止され,1990年大井川鉄道井川線に復活した。車輪と軌条(レール)の摩擦に依存する粘着式は,動力強化を行ってもスリップの危険防止から,100/1000程度が限度となる。車両に取りつけた歯車を鋸歯状あるいははしご状に加工した特殊レールとかみ合わせ,スリップ防止をはかる歯軌条式鉄道には,アプト式,リーゲンバッハ式,ストルブ式などの別がある。歯軌条式には480/1000(スイスのピラトス山)の特例もあるが,より急勾配な区間は鋼索鉄道の分野となる。近年,ロープウェーの建設技術が急速に進歩したため,工費の割高な登山鉄道の建設はほとんど行われていない。
執筆者:中川 浩一
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