日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲベーレ」の意味・わかりやすい解説
ゲベーレ
げべーれ
Gewere ドイツ語
ゲルマン法における不動産とりわけ土地に対する権利の外的表現形式。中世初期のヨーロッパでは、だれが正当な権利者であるのかを決めるのに、その土地を現に領有支配している者や現に土地を耕作している者の占有状態をみて判断せざるをえなかった。たとえその者がどのような仕方で占有するようになったにしても、1年と1日占有状態を継続することによって正当な権利者とされ、その者から譲り受けた者も正当な権利者とされた。やがて国王の権力が確立するようになると、ゲベーレは国王の裁判所や領主の裁判所で保護されるようになり、しだいに法的概念として、ローマ法における、本権(所有権、ラテン語でdominium)とは別個の占有possessio(ラテン語)に近い取扱いを受けるようになった。ドイツの登記制度はゲベーレの公示性に由来するものとされている。日本の現行民法は、基本的にはローマ法の占有制度を継承したもので本権とは別個に占有を保護しており、物権の一つとして位置づけているが、承継取得を認め(187条)、占有に本権の推定力を与え(188条)、即時取得(192条)、代理占有を認めた(204条)のは、ゲベーレの影響によるものとされる。
[佐藤篤士]