物権(読み)ブッケン(その他表記)real right
Sachenrecht[ドイツ]
droit réel[フランス]

デジタル大辞泉 「物権」の意味・読み・例文・類語

ぶっ‐けん【物権】

財産権の一。一定の物を直接に支配する権利。所有権占有権地上権永小作権地役権質権抵当権留置権先取特権など。

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精選版 日本国語大辞典 「物権」の意味・読み・例文・類語

ぶっ‐けん【物権】

  1. 〘 名詞 〙 特定の物を、他人の行為を媒介とせずに直接支配できる権利。債権と並んで財産権の主要なものとされ、現存の特定した独立の物の上にだけ成立する。所有権・占有権・地上権・永小作権・地役権・入会権・留置権・先取特権・質権・抵当権の一〇種類。公示方法(登記・引渡)によって第三者に対して権利を主張できる。
    1. [初出の実例]「民法の規則に於て人権物権契約の権義を掲載したる条欵」(出典:明六雑誌‐三五号(1875)夫婦同権弁〈津田真道〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「物権」の意味・わかりやすい解説

物権 (ぶっけん)
real right
Sachenrecht[ドイツ]
droit réel[フランス]

物権は,債権と並んで,財産権の二大領域を形成するので,債権(債権・債務)と対照してみるとき,その本質が明瞭になる。すなわち,物権は物を直接的・対世的に支配する権利である。これに対し,債権は特定人(債権者)が特定人(債務者)に対し一定の給付を請求する権利である。例えば,物権の代表的なものは所有権であるし,債権の最もポピュラーなものは金銭債権であるから,両者を念頭に置いて考慮してみよう。まず,物権の客体は物の支配である。物とは有体物,例えば動産・不動産をいう。これに対し,債権の客体は特定人の給付,すなわち金銭債権についていえば金銭の支払である。つぎに,物権が〈直接的〉であるというのは,例えば金銭債権において他人つまり債務者の行為(金銭の支払)が介在することによって権利の内容が実現されるのに対し,所有権については所有権者は直接に(他人の行為の介在を要せずに)物の支配をなしうるのである。さらに物権が〈対世的〉にということは,例えば金銭債権では債権者は債務者という特定人に対してだけ権利の効力を主張しうるのに対し,所有権者は何人に対しても自己の権利の主張ができることをいう。こうして,物権は〈物に対する権利〉,債権は〈人に対する権利〉ということができる。古来,財産権は,ローマ法においても,アングロ・サクソン法においても,〈物に対する権利〉と〈人に対する権利〉というふうに分類されてきた。しかし,近代においては,このほかに人間の知能による無体の価値に対する支配権としての無体財産権(特許権,著作権,商標権等)を生み出したので,新たな財産権の領域が加わったといえよう。

物権が対世的な支配権であるという本質から,物権は排他性を有するといわれる。排他性とは同一内容の権利は同一客体の上には併存できないことをいう。例えば,同一物について,2個以上の所有権,地上権,地役権,質権などは存在しえない。もっとも,抵当権は一番抵当権,二番抵当権,三番抵当権……というように成立しうる。しかし,二番抵当権は一番抵当権の実行によって残余の価値があるときに,残余の価値の支配権(客体を直接に支配する権利。物権,無体財産権など)としての効力を有するのであって,一番抵当権が2個以上成立することはありえないのである。

 物権が排他性を有することから,物権には特有の効力として物権的請求権物上請求権ともいう)が認められる。物権的請求権は,物権が侵奪された場合の返還請求権,物権の使用・収益が妨害されている場合の妨害排除請求権および物権の使用・収益が妨害されるおそれがある場合の妨害予防請求権に分かれる。例えば,宝石が盗まれた場合や土地が不法占有されている場合の取戻しや明渡しの請求権は返還請求権,庭に隣家の松の木が倒れてきた場合の除去の請求権は妨害排除請求権,隣家の石垣が庭にくずれかかってくるおそれがある場合のしかるべき予防措置を求める請求権は妨害予防請求権である。債権には排他性がないから,物権的請求権類似の権能は認められない。例えば,俳優AとB劇団,C劇団が同日時に出演する契約を結んだ場合,A-B間,A-C間のそれぞれの出演契約は有効であり,事実上どちらかの出演契約につき,Aは債務不履行責任損害賠償)を負うという結果に落ちつく。この間,B劇団はC劇団に対し,C劇団はB劇団に対し,妨害排除請求や妨害予防請求をすることは認められない。債権の成立については,原則として,自由競争の原理が支配しているのである(契約自由の原則)。

物権は,上述のように排他性を有する権利であるから,自由な契約によって設定することを許されない。当事者が自由に設定することが許されると,社会生活関係は混乱を生じることになるからである。そこで,物権の種類については法律がこれを定めている。これを物権法定主義という。

 日本民法において認められている物権を分類すれば,次のとおりである。(1)所有権 物権の代表的なもので,いわば完全な物権ということができる。(2)用益物権 地上権,永小作権,地役権,入会(いりあい)権がある。用益物権とは他人の物を使用・収益する権利(用益権,利用権)であるが,用益権としては,物権的用益権たる用益物権と債権的用益権たる賃借権・使用借権がありうる。(3)担保物権 留置権,先取(さきどり)特権,質権,抵当権が認められている。用益物権でも担保物権でも,所有権を用益のためまたは担保のため制限する権利であるということになるため,あわせて制限物権ないし他物権とも呼ばれている。(4)占有権 所有権,用益物権,担保物権は本当の(真実の)権利であることを前提としているが,占有権は権利者が本当に所持すべき権利があるか否かを問わず,占有という事実があれば,それに一定の効果を認めて保護しようとする権利である。したがって,いわば仮の権利とでもいってよい。これに対し,占有権以外の権利は本権(占有を正当づける実質的な権利。占有権に対し,〈占有すべき権利〉ともいう)とよばれる。以上の各種の物権の内容についてはそれぞれの項目を参照されたい。

 では,物権法定主義との関係で,民法の定める以外の物権を約定により設定することはできないが,慣習法上の物権は認められないのか。民法施行法(1898公布)35条は〈慣習上物権ト認メタル権利ニシテ民法施行前に発生シタルモノト雖モ其施行ノ後ハ民法其他ノ法律ニ定ムルモノニ非サレハ物権タル効力ヲ有セス〉と規定している。ここに〈民法其他ノ法律〉による物権とは,鉱業法における鉱業権・租鉱権,採石法における採石権,漁業法における漁業権・入漁権。各種の財団抵当法(工場抵当法,鉱業抵当法,鉄道財団抵当法,軌道財団抵当法,その他)における財団抵当権などをいう。そこで,慣習法上の物権,例えば温泉権,灌漑用水利権などは物権として認めるべきかどうか。温泉権にしても灌漑用水利権にしても,その地盤の所有権者と用益契約を結ぶことなく,昔から慣習として温泉の入浴や灌漑用水利のため温泉や水流,溜池,地下水などを利用している人々の権利はどうなるかという問題である。これらについて,物権法定主義を規定した民法175条および慣習法上の物権について規定した前述民法施行法35条との関係が問われるのである。判例・学説は,いろいろな理論構成を施しつつ,慣習法上の物権につきるに至ったのである。したがって,物権法定主義も,慣習法・判例法によりかなり修正されてきているとみてよい。

物権の客体は物(有体物)であるが,物は,原則として1個の独立物でなければならない。これを一物一権主義という。1個の物の一部ないし構成部分には物権は成立しえない。1個の独立物かどうかは,物理的形状から明らかである場合は別として,一般には取引通念によって決まる。とくに問題となるものを挙げると,次のものがある。

(1)弾力的解釈をとり,容認する態度をとっている。のみならず,判例法上,譲渡担保代物弁済予約(および停止条件つき代物弁済。売買予約)および所有権留保という担保制度はそれぞれ確立し,譲渡担保権,代物弁済予約つき担保権,所有権留保つき担保権は判例法上の物権として定着している。そしてこのうち,代物弁済予約等は近年,〈仮登記担保契約に関する法律〉(1978公布)として立法化され,仮登記担保権は法律上の担保物権としての地位も取得する土地については,その個数は人為的に区画して定められ,土地登記簿の表題部に記載された1筆の土地が1個の土地ということになる。1筆の土地を分割して数筆の土地とし,また数筆の土地を合併して1筆の土地にするためには,分筆または合筆の手続をしなければならない(不動産登記法82条,86条)。もっとも,1筆の土地の一部を対象として,抵当権,地上権などを設定したり,売却して所有権を移転したり,取得時効によって所有権を取得したりすることはできる。しかし,それらの場合でも,用益物権,担保物権の取得や所有権の取得を当事者以外の第三者に対抗しうるためには,設定,分筆,移転,取得などの登記をしなければならない。

(2)建物は土地と別個の不動産であるから,建物自体を目的とする所有権,抵当権等の物権が成立しうる。建設中の建物がいつから独立の不動産となるかにつき,判例は,屋根瓦をふき,荒壁を塗り終えた建物はまだ床や天井を張るに至らなくても1個の不動産として登記の対象となりうるという。なお,マンションなどの集合住宅は各個の区分所有部分自体が独立した建物と認められている(〈建物の区分所有等に関する法律〉(1962公布))。物置小屋,便所などが建物の外にある場合は,それらは従物であって主物たる建物についての権利の処分に従う(民法87条)。また,建物に抵当権が設定されたときには,物置小屋,便所などは付加物として抵当権の効力が及ぶ(370条)。

(3)立木(りゆうぼく),未分離の果実は,原則として土地の一部として土地所有権に含まれる。しかし,〈立木に関する法律〉(1909公布)によって保存登記された立木は,地盤たる土地とは別個の不動産とみなされ,立木所有者は,立木を土地と別個に譲渡したり,抵当権の目的としたりすることができる。これ以外の立木およびミカン,リンゴ,稲立毛といった未分離の天然果実(〈果実〉の項参照)は,明認方法を施せば,土地から独立して取引の対象とすることができる。

(4)複数の物に1個の物権を認める例外的な場合がありうる。各種の財団抵当法における財団抵当権は企業を構成する土地,建物,機械,工業所有権などを一括して抵当目的とすることを認めている。また,近年,判例は,店舗,工場,倉庫などの内部にあって,しかも販売・仕入れなどのため出入りのあるについても一括して譲渡担保の目的とすることができると認めた(集合物動産譲渡担保)。

物権の取得,移転,喪失などは物権変動とよばれる。物権の変動は,相続,時効,加工,付合,無主物先占,埋蔵物発見,遺失物拾得,滅失,朽廃などによって生ずるほか,意思表示すなわち契約・遺贈などによって生じる。注意すべきは,土地所有権の譲渡の場合には,近代以前には一定の形式,例えば当該土地への立入り,当該土地上の樹木を伐採して引き渡す儀式,領主や名主等の承認その他の行為を要する慣例が普通であったが,近代に入り,すべての物権変動は当事者の意思表示のみでも効力を生じると認められるようになった(民法176条)。ここには,権利主体の意思を尊重する近代法の精神を読み取ることができる。

 他方,近代社会は商品交換社会であるから,取引の安全も欠くことのできない重要性をもつ。したがって,取引の安全のためには,物権変動を第三者が知りうるように一定の標識を設けておくことが必要となる。いわゆる公示制度がこれである。そこで,日本民法は,不動産物権変動の公示方法を登記とし,動産物権変動の公示方法を引渡しと定め,登記(例えば,所有権移転登記,抵当権設定登記など)または引渡しがなされた物権変動は第三者に対しても対抗することができると定めた(177条,178条)。これを登記または引渡しの対抗力という。そのため例えば二重譲渡がなされた場合には,早く登記または引渡しを得た者が他の者に優先して権利を取得することになる。対抗力は公信力(〈公信の原則〉の項参照)とは別個の効力である。公信力とは無権利者から物権を取得した場合,外形を信頼して取引したのであれば真実の権利者に対しても権利主張ができる効力をいう。例えば,真正相続人をA,僭称相続人(法的には相続人になる資格をもっていないが,事実上相続人の地位を有する者。表見相続人ともいう)をBとしよう。Bから,相続不動産または相続動産を,善意・無過失で買い受け,登記または引渡しを得たCは,Aに対しても所有権取得が認められるか。民法は,不動産の登記には公信力を認めないが,動産の引渡しには公信力を認めている(192条)。不動産取引については真実の権利者保護,動産取引については取引安全の保護に重点がおかれているといえよう。
担保物権
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「物権」の意味・わかりやすい解説

物権
ぶっけん

私法上、物を直接に支配する権利をいう。所有権がその代表である。債権とともに財産権中の主要部分を構成する。

[高橋康之]

債権との差異

債権は、金銭の支払いや洋服の縫製などのような特定の行為を特定の人(債務者)に対して要求することのできる権利である。つまり債権はその実現にかならず人の行為を必要とするのであって、そこに物(金銭、洋服)が介入しても、債権者がその物に対して直接の権利をもつわけではない。これに対して、物権は物を直接に支配する権利であるから、物権をもっている者は、その実現のために他人の行為を介す必要はない。そこで、物権は特定の人だけに対する権利ではなく、天下万人に対する権利だといわれる。また、物権には排他性があり、債権には排他性がないといわれている。これは、一つの物に同じ内容の物権は二つ以上成立しえないが、同一債務者に対して同一の内容の債権が二つ以上成立することはありうるということである。物権と債権との以上の差異は理念的なものであって、前述の基準が現実に貫かれるわけではかならずしもない。たとえば、一般先取特権は物権であるが、排他性はない。また、賃借権は民法上は債権であるが、土地の賃借権は借地保護立法により、物権である地上権とほとんど異ならないようになった(賃借権の物権化)。

[高橋康之]

物権の種類

債権は、原則として、その内容を当事者が自由に決定できる。これに対して、物権は、その内容が法律で定められており、それとは異なる内容の物権を当事者が創設することはできない。

 その主要なものは民法第二編に規定されている。物を全面的に支配する権利である所有権、物を限られた方向においてだけ利用する用益物権(地上権、永小作権、地役権、入会(いりあい)権)、物を債権の担保として支配する担保物権(留置権、先取特権、質権、抵当権)とに大別される。そのほか特殊な物権として占有権がある。

[高橋康之]

物権の対象

物権の対象は原則として有体物に限られる(民法85条)。民法上、有体物は動産と不動産とに分かれ(同法86条)、両者は物権法上かなり異なった取扱いを受ける。物権の対象となる物は、特定の、独立した物でなければならない。たとえば、単に100平方メートルの土地についての所有権というのは成立しない。どこの土地であるかが定められて、初めて土地は所有権の対象となる。また、数個の物のうえに1個の物権が成立することもない(一物一権主義)。もっとも、このあとの点は、多数の物の集まりである工場などの企業施設全体を担保にする財団抵当の制度で修正を受けている(財団抵当の制度は、企業施設全体を1個の物であるとし、それに抵当権を認めるものである。この意味においては、財団抵当の制度は一物一権主義に従っているともいえる)。

[高橋康之]

物権の効力

物権に与えられる一般的な効力には、優先的効力と物権的請求権とがある。

(1)優先的効力 同一の物のうえに物権と債権とが重なって成立した場合には、物権が優先する。たとえば、甲が乙に対して物を賃貸し、ついで甲が丙に対してそれを売った場合には、丙の所有権が乙の賃借権に優先し、丙は乙に対してその物の引渡しを請求できる(ただし不動産の賃貸借には例外もある)。前記とは異なって、同一の物のうえに内容の衝突する二つの物権が重なって成立した場合には、先に成立したものが優先する。たとえば、ある土地に抵当権が設定され、そのあとで地上権が設定された場合に、抵当権の実行によって地上権は効力を失う。これは、物権の排他性、つまり同一の物のうえに同一内容の物権は重ねて成立しないという原則の結果である。もっとも、排他性は、権利の成立のときではなく、対抗要件が備えられたときに生ずるのが原則である。したがって、不動産については登記(民法177条)、動産については引渡し(同法178条)を先に得た者が優先することになる。

(2)物権的請求権 物権の内容の完全な実現が妨害され、また妨害されるおそれがある場合には、物権をもっている者は、妨害者に対してその妨害の排除を請求することができる。

[高橋康之]

国際私法上の物権

日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)によれば、動産および不動産に関する物権の成立・効力の準拠法はその目的物の所在地法とされている(同法13条1項)。ただし、物権の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法によるので(同法13条2項)、A国にあった当時に動産に対して担保物権が設定され、後にB国に移動した場合には、その担保物権が成立したか否かはA国法により、その効力はB国法によることになる。物権は対世的な効力があるため、物権法定主義といわれる原則が妥当しているのが一般的であり、B国法においてA国法上の担保物権を認めることはできず、B国法上の類似の担保物権があれば、それに置き換えてB国法上のその類似の担保物権としての効力が与えられることになる。他方、B国法上の類似の担保物権がなければ、B国にその動産がある間は効力を認められず、その動産がA国に戻るか、または類似の担保物権を認めるC国に移動した場合にふたたび効力が与えられることになる。

 船舶、航空機のように移動を常とする動産については、そのときどきの所在地法を適用することは法律関係の安定性を害することになるため、それらの物権問題は一般に登録国法(船舶については旗国法)によるとされている。また、日本の判決によれば、自動車を運行の用に供し得る状態の場合と、ナンバープレートがつけられていない場合など運行の用に供し得ない状態の場合に分け、前者の場合にはその自動車の利用の本拠地法を適用するが、後者の場合には所在地法によるとされている(最高裁判所平成14年10月29日判決、民集56巻8号1964頁)。

 国際裁判管轄の局面では、不動産の物権を目的とする訴訟についてはその所在地国の専属管轄とするとのルールがみられる。ヨーロッパ連合(EU)の「民事及び商事に関する裁判管轄及び判決の承認・執行に関する規則(2000)」(ブラッセルⅠ規則と称される)第22条第1項はこのことを定めている。これに対して、日本の民事訴訟法の国際裁判管轄の専属に関する規定(3条の5)には、日本に所在する不動産の物権を目的とする訴訟は含まれていない。

[道垣内正人 2016年5月19日]

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百科事典マイペディア 「物権」の意味・わかりやすい解説

物権【ぶっけん】

一定の物を直接に支配する権利。債権とともに財産権の主要部分を占める。同一物につき同一内容の2個の物権が成立しないという排他性が特色。目的物は有体物であるのが原則である(民法85条)が,権利質のように権利の上に成立する物権もある。民法上の占有権所有権地上権永小作権,地役権入会(いりあい)権,留置権先取特権質権抵当権のほか,商法・特別法上にもいくつかある(鉱業権漁業権特許権等)。いずれにせよ,物権は法律で定められたもの以外に新たに創設することはできない。効力・作用・客体の点から,所有権と制限物権用益物権担保物権,動産物権と不動産物権などに分類。→物上請求権
→関連項目空中権ゲウェーレ財産権採石権租鉱権地下権賃借権

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「物権」の意味・わかりやすい解説

物権
ぶっけん
Sachenrecht; property

特定の人の行為 (給付) を媒介とせず,直接一定の物を支配できる権利。その性質上,一定の物の上に排他的に成立し (一物一権主義) ,何人に対しても主張できる絶対権とされる。このことから,債権のように当事者の契約によって自由に内容を決めて成立させることはできず,原則として,民法および特別法に認められた型にあてはまるものしか認められない (物権法定主義。民法 175) 。民法の認める物権には,所有権のほか各種の用益物権や担保物権があり,ほかに漁業権,鉱業権,採石権 (他人の土地において岩石及び砂利を採取する権利。採石法4) など特別法によって物権と認められたもの,流水利用権 (水利権) ,温泉権 (温泉源を利用する権利,温泉法) など慣習法上の権利のうち判例によって物権と認められているものがある。

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世界大百科事典(旧版)内の物権の言及

【債権・債務】より

…乙は甲に対して,〈建物を使用させろ〉という債権(賃借権)を有するにすぎないのであるから,丙に対しては,乙の債権の実現が妨害されているにしても,債権そのものに基づいてその排除を求めることはできない――もっとも乙が建物を占有して(住んで)おれば,丙に対して占有訴権(民法197条以下)を行使できるが――とするのが,原則である。乙は,甲に対して,甲がその所有権に基づく物権的請求権を行使して丙を排除するよう,請求しうるにとどまり,甲がこれに応じないときは,民法423条により,乙はその賃借権を保全するため,甲の丙に対する物権的(妨害排除)請求権を,甲に代わって行使することとなる(債権者代位権)。しかし,これはいささか迂遠の嫌いがある。…

【所有権】より

…〈支配する〉は〈請求する〉に対立し,権利行使の態様に関する表現である。債権が,特定人が他の特定人に対し一定の行為を請求する権利であるのに対し,物権に属する所有権は特定の物を排他的・全面的に支配する権利である。物とは有体物,たとえば動産・不動産をいう(民法85条)。…

※「物権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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