熊坂長範(読み)クマサカチョウハン

デジタル大辞泉 「熊坂長範」の意味・読み・例文・類語

くまさか‐ちょうはん〔‐チヤウハン〕【熊坂長範】

平安末期の伝説盗賊奥州へ下る金売吉次を襲おうとして、美濃赤坂(あるいは青墓あおはか)の宿場牛若丸に討たれたという。謡曲熊坂」や浄瑠璃などに脚色されている。

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精選版 日本国語大辞典 「熊坂長範」の意味・読み・例文・類語

くまさか‐ちょうはん【熊坂長範】

  1. 平安末期の伝説的盗賊。美濃国青墓の長者の館(謡曲では赤坂の宿)で金売り吉次を襲い、牛若丸に討ちとられたという。ただし、「義経記」巻二では場所も盗賊名も異なる。幸若「烏帽子折(えぼしおり)」、謡曲「熊坂」などに取材される。

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改訂新版 世界大百科事典 「熊坂長範」の意味・わかりやすい解説

熊坂長範 (くまさかちょうはん)

義経伝説に登場する盗賊。牛若丸が金売吉次に伴われて奥州の藤原秀衡のもとへ下る途中,吉次の荷物をねらう長範一行に襲われたが,牛若丸の活躍によって長範は討ちとられたという。長範が牛若丸を襲う場所は美濃国青墓(幸若舞《烏帽子折》,謡曲《現在熊坂》)とも同国赤坂(謡曲《烏帽子折》《熊坂》)とも伝える。《義経記》では盗賊の名を長範とせず,藤沢入道と由利太郎とし,場所は近江国鏡の宿とされる。生国は越後信濃の境にある熊坂(現,長野県上水内郡信濃町熊坂)とも加賀の熊坂(現,石川県加賀市熊坂町)とも伝える。伝説は各地にあるが,なかでも美濃の青野ヶ原の熊坂長範物見の松が有名で,近くには長範の腰掛岩,長範のかくし馬屋などもあった(《新撰美濃誌》など)という。現在は岐阜県不破郡垂井町綾戸にこの物見の松がある。歌舞伎には《熊坂長範物見松》などがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「熊坂長範」の意味・わかりやすい解説

熊坂長範
くまさかちょうはん

生没年不詳。平安末期の大盗賊。実在人物として証拠だてるのは困難であるが、多数の古書に散見し、石川五右衛門と並び大泥棒の代名詞の観がある。出身地は信州熊坂山、加賀国の熊坂、信越の境(さかい)関川など諸説ある。逸話に、7歳にして寺の蔵から財宝を盗み、それが病みつきになったという。長じて、山間に出没しては旅人を襲い、泥棒人生を送った。1174年(承安4)の春、陸奥(むつ)に下る豪商金売吉次を美濃青墓(みのあおはか)の宿に夜討ちし、同道の牛若丸に討たれたとも伝わる。この盗賊撃退譚(たん)は、義経(よしつね)モチーフの一つではあるが、俗説の域を出ない。謡曲『烏帽子折(えぼしおり)』『熊坂』、能狂言『老武者』、歌舞伎(かぶき)狂言『熊坂長範物見松(ものみのまつ)』は長範を扱って有名。

[稲垣史生]


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百科事典マイペディア 「熊坂長範」の意味・わかりやすい解説

熊坂長範【くまさかちょうはん】

義経伝説に登場する平安末期の大盗賊。美濃(みの)などに出没し,旅人を襲った。陸奥(むつ)に下る京都の富商橘次(きつじ)を美濃青墓(あおはか)宿に襲ったが,かえって牛若丸のため討たれたという。また金売吉次(かねうりきちじ)に伴われた牛若丸が美濃赤坂宿で熊坂を討ったともいい,一定しない。

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朝日日本歴史人物事典 「熊坂長範」の解説

熊坂長範

生年:生没年不詳
平安末期の盗賊。『義経記』によれば,豪商橘次が牛若丸を連れ,奥州に下ろうとしたとき,長範は美濃青墓で待ち構え一行を襲ったが,かえって牛若丸に殺害されてしまった。実在の人物であるかは明らかでないが,のちの時代に謡曲,浄瑠璃,歌舞伎に取り上げられ,民衆に親しまれた。

(飯沼賢司)

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「熊坂長範」の解説

熊坂長範 くまさか-ちょうはん

平安時代後期の盗賊。
濃尾地方に出没して旅人をおそった野武士。実在の人物かどうかは不明。各種の伝説があるが,京都の豪商金売吉次を美濃(みの)青墓宿におそい,源義経に討たれたという伝承が流布している。のち謡曲「熊坂」,歌舞伎「熊坂長範物見松」にとりあげられた。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「熊坂長範」の解説

熊坂長範
(別題)
くまさかちょうはん

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
熊坂長範物見松
初演
天保8.2(大坂・中村梅太郎座)

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世界大百科事典(旧版)内の熊坂長範の言及

【烏帽子折】より

…その後,青墓の宿に泊まるが,宿の長者は義朝の妾満寿で,牛若の吹いた笛のことから用明天皇の草刈笛の由来を語り,牛若を義朝をまつる光堂に案内する。牛若はそこでまどろみ,夢中に義朝,悪源太,朝長の3人が現れ,熊坂長範が率いる盗賊が吉次を襲うことを告げる。夢からさめた牛若はひとりで盗賊を討ち滅ぼす。…

【熊坂】より

…作者不明。シテは熊坂長範の霊。旅の僧(ワキ)が美濃の赤坂にさしかかったとき,別の僧(前ジテ)に呼び止められ,今日はある者の命日だから弔いを頼むと言われ,その草庵に導かれる。…

※「熊坂長範」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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