改訂新版 世界大百科事典 「コンメンダ」の意味・わかりやすい解説
コンメンダ
commenda
イタリア史の用語。性格の異なる多くの制度を指すのに用いられるが,最も重要なのは,教会法的制度と中世の商法的制度を指す場合である。それらの諸制度は,物や人をある者に〈委託する〉(ラテン語でcommendo)という要素を含む点で共通性をもつ。まず,教会法的コンメンダは聖職禄や職階を,それらを正式にもつ資格のない者に委託すること。例えば,修道院のそれらを教区付き聖職者に委託することや,司教座のそれらを法王庁付き聖職者に委託することをいう。これに対し,中世商法的コンメンダは,中世商業における企業契約の一つで,委託者commendatorが資本を受託者commendatariusに委託し,受託者はそれをもって現実に商旅に赴いて取引をなし,その利潤を両者で分配するという双務契約をいう。起源は古代にさかのぼるといわれ,イスラム商人によっても利用された。〈商業の復活〉とともにイタリア諸都市(とくに海港諸都市)をはじめとする南ヨーロッパの諸都市において広く利用された。一般に海上貿易において一航海ごとに契約が結ばれた。資本形態は現物商品は少なくなかったが,しだいに貨幣が一般的となった。受託者はまた(資本の)運営者portator,監理者tractatorとも呼ばれた。ベネチアではコンメンダをコレガンツァcolleganzaと呼んだ。委託者と受託者との〈結合〉という意味である。さて商法上のコンメンダの普及につれて,いくつかの形態が出現した。(1)狭義のコンメンダ 委託者が資本を全額出資し,利潤は一般に委託者が4分の3,受託者が4分の1の割合で分配するもの。損失の場合には委託者は出資額を限度とする有限責任,受託者は無限責任を負った。この契約では企業の主導性は圧倒的に委託者の側にあった。(2)広義のコンメンダ (1)の発展形態であるが,その代表例としてソキエタス・マリスsocietas maris(〈海上貿易企業契約〉の意)をあげよう。この契約では受託者も資本の一部を出資し,一種の会社資本が発生した。委託者は資本の3分の2を,受託者は3分の1を出資し,利潤は折半という例が多かった。損失の場合には(1)の場合と同じ責任を両者がそれぞれ負担した。この契約では受託者の主導性が増大し,委託者は無機能資本家の性格が強化した。このことから,無機能資本家の有限責任制がしだいに発展し,会社制度の発展に大きな寄与をなしたといわれる。いずれにせよコンメンダの発展により,多種多様な人々(商人,教会,寡婦など)の資産が資本として海上貿易に導入され,その規模の拡大発展が可能になった。受託者も同時に多数の委託者と契約を結ぶことにより,大きな利潤をあげることが可能であり,富の蓄積速度を上昇させることができた。なおコンメンダは,教会の高利禁止令の規制を逃れるために,高利貸契約の一種の仮装手段としても利用されることがあった。
→会社
執筆者:斉藤 寛海
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報