イギリスの無政府主義者。中流の熱心なカルバン派牧師の家庭に生まれ、幼少期から権威に対する徹底的な反抗心と精神の自由への要求を抱く。初め牧師となったが、まもなくフランス百科全書派の影響を受けて牧師を辞め、文筆活動に入った。以後、政治思想、小説、歴史、伝記などの分野で著作を行うが、1793年に出版した『政治的正義』An Enquiry concerning Political Justice, and its influence on General Virtue and Happinessで一躍有名となった。1797年、女性解放論者メアリー・ウルストンクラフトと結婚、女児(のち詩人シェリー夫人となったメアリー)をもうけたが、妻は産褥熱(さんじょくねつ)で死亡した。1801年の再婚後は出版業などを営んだが、経済的にも困窮し社会からまったく忘れられた存在だった。
主著の『政治的正義』では、人間の理性への全面的な信頼をベースに、各人が理性に従って利己心を滅却し、社会全体の利益促進のため行動すれば調和が生まれるし、そのような行動を正義だとしている。そして私有財産制度を、各人の個人的利益を最優先させるがゆえに否定し、私有財産制度を前提とする政府を、人類の無知と誤謬(ごびゅう)の産物として退ける。彼は未来に、独立した生産者である個人の小集団から構成される共産主義社会を構想し、各人の理性を啓蒙(けいもう)することによって政治制度は不要となり、紛争は非常設の陪審員が解決し、また結婚・家族制度も不要になる、と楽観的な理想社会を描き、オーエンらに影響を与えた。
[大木基子]
『白井厚訳『政治的正義(財産論)』(1971・陽樹社)』▽『白井厚著『ウィリアム・ゴドウィン研究』増補版(1972・未来社)』
イギリスの無政府主義者。カルバン派の牧師の子としてケンブリッジシャーのウィズビーチに生まれる。長じてカルバン派の牧師となったが,フランスの啓蒙哲学に接して信仰に動揺をきたし,1782年,ロンドンに出て牧師を辞め,著作活動にはいった。彼を一躍有名にしたのは,フランス革命に触発されて著した《政治的正義》2巻(1793)で,これが彼の主著となった。この本の中で,彼は,既成の蓄積財産と政府の存在を諸悪の根源として攻撃する一方,富の分配が平等に行われる社会が実現されるなら,そこでは人間の理性が高度な発展を遂げて,あらゆる政治権力は消滅するであろうと論じ,当時の思想界に衝撃を与えた。97年,女権拡張論者M.ウルストンクラフトと結婚,1女をもうけた。のちのM.W.シェリーで,《フランケンシュタイン--現代のプロメテウス》の著者として知られる。
執筆者:村岡 健次
イギリスのビクトリア朝時代の建築家,デザイナー。家具,舞台および舞台衣装といった分野でも活躍。とくに1862年のロンドン万国博覧会で日本の浮世絵に接し,その輪郭と色彩の明晰さ,アシンメトリーと軽快なデザインに影響を受け,インテリアと家具デザインの分野で〈アングロ・ジャパニーズ〉と呼ぶ独特の様式を展開させた。彼は材質や構造よりも,形態の簡潔さと軽快さ,比例の美しさに重点をおき,70年代の〈芸術家具〉の流行に重要な役割を果たした。
執筆者:鍵和田 務
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1756~1836
イギリスの思想家。非国教派牧師の家に生まれ,一時牧師となったが,フランス百科全書派の影響を受け,フランス革命勃発後に『政治的正義』(1793年)を著して,私有財産制を否定し,無政府主義を唱え,共産主義的な平等社会を主張した。1797年女性解放論者のウォルストンクラフトと結婚したが,まもなく死別。二人の間の娘が詩人シェリーの妻。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…そして,大革命の流れの中で,1791年にはみずからアナーキストを名のる一派も現れた。こうした現実の運動を昇華した形でアナーキズムに最初に哲学的表現を与えたのはイギリスのW.ゴドウィンであった(《政治的正義》1793)。彼は正義と幸福の達成を財産および国家の廃絶のうちに求めたが,それはなんら実現の方法論を伴うものでなく,個人としての人間の完成可能性を示すにすぎなかったといえる。…
…H.ウォルポールの《オトラント城奇譚》(1764)や,A.ラドクリフの《ユードルフォの秘密》(1794)などでは,超自然現象的な不思議な現象が,結末で論理的に解明され,人間の恐怖心理が分析され,今日の〈スリラー小説〉の先駆となっている。W.ゴドウィンの《ケーリブ・ウィリアムズ》(1794)は殺人事件を一個人が究明し犯人を自白に追いつめる物語である。 イギリスで発生した〈ゴシック・ロマンス〉はたちまちヨーロッパ大陸,アメリカに渡って大流行し,多くの名作を生み出した。…
※「ゴドウィン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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