音を制作素材や媒介とした美術作品の総称。大がかりな機械を用いた音響作品やサウンド・インスタレーションからボイス・パフォーマンスにいたるまで範囲は多岐にわたるが、音楽家の余技ではなく、あくまでも美術作品として位置づけられる。近代以後の音楽はコンサート・ホールやライブハウスでの演奏、レコードによる再現など美術とはまったく別の発信・受容形態を確立してきたが、なかにはエリック・サティの「家具の音楽」など、必ずしもこの受容形態に当てはまらない音楽も制作されていた。1913年には、未来派(未来主義)の中心人物であったルイジ・ルッソロが未来派の第1回コンサートで、自作の「イントナルモリ」(騒音楽器)を活用した無調音楽作品を発表するが、当時はさして注目も評価もされなかったこの「騒音音楽」こそが、後のサウンド・アートの嚆矢(こうし)とされている。
第二次世界大戦後、音の受容形態に新たな可能性を開いたのがジョン・ケージの「偶然性の音楽」であった。音により構成された従来の音楽を批判する意図をもち、偶然入り込んだ音以外は音のない『4分33秒』(1952)のような作品を生んだこの概念は音楽のみならず美術の領域にも強いインパクトを与えた。これをきっかけに、1960年代のアート・シーンでは、イベントやニューヨークの表現運動フルクサスなどの動向を通じてさまざまな音響実験が行われ、1970年代以降サウンド・アートはパフォーマンスと強く結びつき、コンセプチュアル・アートの重要な一角を占めるようになった。既成の楽器の音色や確立された演奏形態によらないサウンド・アートの音響実験は、観客が音を聴くことによって意識を集中し、その音は周囲の環境へと浸透していくような効果をもたらす。アメリカの作曲家ポーリン・オリベロスPauline Oliveros(1932―2016)が「ディープ・リスニング」と呼んだこの行為の相互作用的効果は、サウンド・アートのつくり出す音環境にとって決定的に重要である。
コンピュータ・テクノロジーの発展に伴い、サウンド・アートはメディア・アートとしての性格を強めており、音を一切用いていないメディア・アート作品を探すほうが難しい。音作品によって知られるカールステン・ニコライ、ドイツのサウンド・アーティスト、マーク・ベーレンスMarc Behrens(1970― )、池田亮司(1966― )らの作品もその例外ではない。また、多くのサウンド・アーティストは自らのレーベルを設立して自作のCDを発行しており、サウンド・アートは必ずしも会場で聴くものとは限らなくなっている。
[暮沢剛巳]
『ポーリン・オリヴェロス著、若尾裕ほか訳『ソニックメディテーション――音の瞑想』(1998・新水社)』▽『藤枝守著『響きの生態系――ディープ・リスニングのために』(2000・フィルムアート社)』▽『「サウンドアート――音というメディア」(カタログ。2000・NTTインターコミュニケーション・センター)』
「歓喜の歌」の合唱で知られ、聴力をほぼ失ったベートーベンが晩年に完成させた最後の交響曲。第4楽章にある合唱は人生の苦悩と喜び、全人類の兄弟愛をたたえたシラーの詩が基で欧州連合(EU)の歌にも指定され...
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