コンセプト・アートともいい、概念芸術と訳される。現象的には第二次世界大戦後の主として欧米におけるネオ・ダダ、ポップ・アート、フルクサス、ヌーボー・レアリスム、ミニマル・アートなどのなかにみられる、反芸術的な傾向や芸術を問い直す傾向をさす。また様式上は文字、記号、写真、映像、図表、地図、行為(パフォーマンス)などを用いることが多い。しかし内容的には、1910年代にマルセル・デュシャンが陶製の男性用小便器に『泉』と名づけた「レディーメイド(既製品)」の作品によって、美術の概念とは相対的なものであり、その概念(約束事)を変更すれば(便器もまた美術作品に加えることを全体で容認すれば)、その中身も変わりうるのだ、ということを示したことに端を発する。
この問題意識は、第二次世界大戦後になって、やっと多くの美術家が共有するものとなった。そこで最広義では、旧来の美術を問い直すこと自体を概念芸術的ということもできなくはない。しかし絵画を問い直すことや彫刻を問い直すこと、また、造形よりもある観念や理念を中心に据えることは、それだけでは概念芸術的とよぶことはできない。たとえばダニエル・ビュランDaniel Buren(1938― )の絵画やミニマリズム彫刻のあるもの、また松澤宥(まつざわゆたか)(1922―2006)の作品などは概念芸術的といいうるが、様式上類似の傾向のものすべてが概念芸術的なのではない。もっと限定的に、問い直しのなかでも美術の概念そのものに焦点を当てているものを概念芸術とよぶべきである。美術概念そのものを提示するジョセフ・コスースJoseph Kosuth(1945― )、表現手段を言語、文字、記号にほぼ限定するグループ、アート・アンド・ランゲージ、生きること自体を行為として宙吊(ちゅうづ)りにして示すギルバート・アンド・ジョージなどである。
ところで、日本では一般的に、概念芸術はしばしばあいまいに観念芸術とよばれたりもした。しかし、デュシャンの問題提起に発し、第二次世界大戦以降絶えず続いているのは、広い意味での旧来の美術(近代美術)の問い直しなのであって、そのすべてが概念芸術的ではないといわなければならない。
[千葉成夫]
『N・スタンゴス著、宝木範義訳『20世紀美術――フォーヴィスムからコンセプチュアル・アートまで』(1997・パルコ出版)』▽『T・ゴドフリー著、木幡和枝訳『コンセプチュアル・アート』(2001・岩波書店)』
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…後者にはケリーEllsworth Kelly(1923‐ ),ヤンガーマンJack Youngerman(1926‐ ),ヘルドAl Held(1928‐ ),フランケンサーラーHelen Frankenthaler(1928‐96),S.フランシス,ノーランドKenneth Noland(1924‐ )らがいて,明快で非人間的な色面操作を行った。60年代後半から美術概念が飛躍的に多極化し,美術を物質と人間のかかわりの原点にまで還元しようとする概念芸術(コンセプチュアル・アート)の出現以来,さまざまな実験が繰りひろげられた。オッペンハイムDennis Oppenheim(1938‐ ),スミッソンRobert Smithson(1938‐73),クリストなどのランド・アートLand Artは,砂漠や海岸などを造形の場に選び,クローズChuck Close(1940‐ )らのスーパーリアリズムも出現する。…
…日本ではコンセプチュアル・アートということが多い。ネオ・ダダ,反芸術,ポップ・アートのあと,1960年代半ばからほぼ10年間,欧米の美術で主流をなした傾向をいう。…
…そのことは実は,美術思想の面では,近代美術思想の極限化が1960年代に起こっていったことと相即不離の関係にあるといえる。そして,60年代後半にミニマル・アートとコンセプチュアル・アート(概念芸術)によって頂点に達するこの極限化(〈芸術といえばそれが芸術なのだ〉というコスースJoseph Kosuthの有名な言葉に象徴される)こそ,見方を変えれば現代美術思想への転換とその開始を告げていると言える。 美術における現代を考える場合には,このように様式面とともに,というよりもそれ以上に,価値概念の側面を正しく見きわめなければならない。…
…この傾向に対応する彫刻ではジャッドDonald Judd(1928‐94)の作品があげられるが,ミニマル・アートの彫刻はプライマリー・ストラクチャーズとほぼ重なっている。また,こうしたミニマル・アートやプライマリー・ストラクチャーズの思想が絵画や彫刻以外の形であらわれたのが,コンセプチュアル・アート(概念芸術)にほかならない。【千葉 成夫】。…
※「コンセプチュアルアート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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