日本大百科全書(ニッポニカ) 「シュペルビエル」の意味・わかりやすい解説
シュペルビエル
しゅぺるびえる
Jules Supervielle
(1884―1960)
フランスの詩人。南米ウルグアイの首都モンテビデオに生まれる。両親は南フランスのピレネー地方の出身で、彼が生まれてまもなく急死したため孤児となり、ウルグアイで牧場や銀行を営む裕福な伯父の手で育てられ、パリ大学文学部卒業後、ゆとりのある文筆生活を送った。処女詩集は『過去の霧』(1900)だが、詩人として注目を浴びるのは第一次世界大戦後のことで、詩集『桟橋(さんばし)』(1922)、『万有引力』(1925)、『無実の囚人』(1930)、『未知の友だち』(1934)など、代表作を相次いで世に送った。
シュペルビエルはどの流派にも分類しがたい、独自の幻想的な詩風にたつ詩人とされており、シュルレアリスムに近い要素をもちながら形而上(けいじじょう)的な要素をも秘め、とくに1930年代後半から40年代にかけては巨匠としての尊敬を受けた。ウルグアイで広大な自然のなかに育った経験が、宇宙的な感覚をもつ初期の自由詩に野性的な鼓動を伝えているが、のちしだいに人間存在の根源を見つめて、独特の存在論的主題を結晶させるに至った。詩集『世界の寓話(ぐうわ)』(1938)、『夜に捧(ささ)ぐ』(1947)、『忘れがちの記憶』(1949)、『誕生』(1951)などがそれである。ほかに『大草原の男』(1923)、『人さらい』(1926)、『日曜日の青年』(1955)などの長編小説、傑作短編集『海原(うなばら)の娘』(1930)、『ノアの方舟(はこぶね)』(1938)、戯曲『ねむり姫』(1932)などがある。
[安藤元雄]
『堀口大学訳『シュペルヴィエル詩集』(新潮文庫)』▽『安藤元雄訳『シュペルヴィエル詩集』(1982・思潮社)』▽『嶋岡晨訳『日曜日の青年』(1973・思潮社)』▽『堀口大学訳『ノアの方舟』(1977・青銅社)』