イギリスの実験物理学者。マンチェスターの西隣のサルフォードで生まれる。祖父の代から酒造業で財をなした家の二男であったが、家業は継がず、生涯を物理実験に捧(ささ)げ、エネルギー保存の原理の確立に寄与した。
生家での教育のほか、10代の後半に化学者ドルトン(当時70歳前後)の指導を受けたにすぎないが、独学の学者W・スタージョンに影響されて、19歳のとき自宅の一室で実験を開始した。初期には、電磁石、発電機、ある種の直流モーターの能率の評価と向上に関心を寄せたが、やがて、電流に伴う熱の発生に注目し、1840年、それに関する法則(「ジュールの法則」)を発見した。
次に、電池の内部での発熱についても一連の実験を進めたが、この種の現象が化学変化を含んでいて複雑であることに気づき、力学的な仕事を直接に熱に変えるという形式の、別な実験に移っていくことになった。すなわち、第一には、磁場内で電磁石を回転させるための仕事とその際の誘導電流のジュール熱との関係、第二には、細い管の中で水を押し流すときの必要な仕事と発生する熱との関係、第三には、気体を圧縮または膨張させるときの仕事と発熱または吸熱との関係、そして第四には、粘性流体である水を羽根車でかき混ぜるときの仕事と発熱との関係と、次々にくふうしつつ実験を進めたのである。世上広く伝えられているという意味では第四の実験が有名であるが、ジュールは、どの実験においても、熱の量に対する仕事の量の比(のちにいう「熱の仕事当量」)を注意深く算定し、どの実験からも、ほぼ等しい比の値が得られることを確かめた。こうして、(力学的な)仕事と熱とは――一定の量的対応関係のもとに――相互に転化するという事実が立証され、多少の遅れを経て広く学界に承認され、ここに「エネルギー保存の原理」が成立したのである。
第四の実験が一段落したのは1847年であったが、その年の6月のイギリス学術振興協会で結果を報告したとき、トムソン(後のケルビン、このとき23歳)は即座にその価値を認めた。以来、二人は協力して研究を進め、空気が断熱自由膨張するとき、その温度が下がること(ジュール‐トムソン効果)をみいだした(1852)。
1850年、ジュールは王立協会の会員に選ばれた。1847年に結婚したが、妻は1854年に他界した。ジュールは2児とともにマンチェスター近郊のあちこちに居を移しながら、なおも実験を続けた。たとえば1867年にはジュール熱を利用する実験によって熱の仕事当量を求め、1875年からは学術振興協会の事業として「水のかき混ぜ」の実験を再現し、1840年代の末に得た結果の正しさを確証した。これらの実験は、電磁気計測の単位およびそれを具現する標準の確立という問題ともかかわり合っていた。
第二次の「水のかき混ぜ」実験が終わったのは1878年であった。ジュール家の資産はすでに尽き、研究費は王立協会から、また生活費は政府の年金でという境遇が、ジュールの晩年を支配した。しかし1884~1887年には科学論文集2巻を刊行することができた。熱の仕事当量の値の表現に用いられた量記号J、仕事・エネルギー・熱量の国際単位系(SI)での単位「ジュール」とその記号Jは、ともにジュールにちなむものである。
[高田誠二]
イギリスの物理学者。マンチェスターの近くで生まれ,家庭で教育を受けた後,15歳のとき,マンチェスターでJ.ドルトンによって手ほどきを受け,物理学と化学の勉強を始めた。いくつかの職業を経験したのち,マンチェスターの近くのサルフォードの大きな醸造所の所有者となった。科学実験に興味をもち,大学の教職には一生つかなかったが,自宅の研究室で余暇に多くの研究をした。ジュールのもっとも有名な業績は熱の仕事当量を精密に測定したことであるが,このほかにも電流の熱作用に関するジュールの法則の発見,空気の自由拡散の際の温度効果や空気の自由膨張についての実験などの業績がある。
ジュールの研究の始まりは,発明されたばかりの電磁石に関心をもち,電気を動力とする実用的な機械モーターが可能だとの考えで,より効率のよい電磁モーターをつくろうという試みに取り組んだことであった。彼は強い電流が流れる際,導線が非常に熱せられるのに注目し,これを防ぐ目的で電流の熱作用を調べたが,この研究の中で,熱の発生が導体の抵抗と電流の強さの2乗に比例することを発見した(1840)。ジュールはさらに熱発生に関するこの法則(ジュールの法則)を電池を含む回路全体に及ぼすことを考えた。ジュールが導かれた観点は,電池内の化学作用こそ回路全体で発生する熱の源だと見ることであり,彼は回路全体で発生する熱は消費される原子(水または亜鉛)の数に比例する(1841年の論文)と理解した。化学作用が電流に変換されたうえで,この電流が化学作用によって生み出されるのと等しい熱量を発生すると考えた。これは熱と仕事の間の当量関係についてのジュール自身の認識につながる考えであった。
1843年の論文で報告した実験において,ジュールは容器中の液体にひたした導線での発熱量を発電機を動かす機械的仕事と関係づけることによって,熱の仕事当量の測定値を出した。機械的仕事という測定できる形に置き換えることによって,初めて制御が可能な実験方法を示すことができたのである。45年には,おもりの上げ下げによって動かす羽根車で液体をかくはんして,液体の温度上昇を測定するという有名な実験を発表した。これは以前の実験方法を発展させ,電気という仲立ちを取り去ったもので,ジュールはこのかくはんによる実験を以後いろいろな形で繰り返したが,50年の論文で示した値1cal=423gf・mが,彼の得たもっとも精密な値である。
なお,47年4月,セント・アン教会でジュールが行った講演は,自然諸力の相互変換を無生物界,生物界,天界にわたって述べており,普遍的自然法則としてのエネルギー保存則の認識を示している。
執筆者:山口 宙平
仕事あるいはエネルギーの単位で,記号はJ。1J=1N・m(ニュートンメートル)と定義される。すなわち,1Jは物体に1Nの力が働いて,力の方向に1mだけ動かしたときにその力がなす仕事に等しい。例えば,1lの水を地球の重力に抗して静かに1m持ちあげるときの仕事を考えると,水の質量は約1kg,地球の重力加速度は約9.8m/s2であるから,水に働く力は1kg×9.8m/s2=9.8kg・m/s2=9.8Nであるので,9.8N×1m=9.8Jの仕事となる。国際単位系(SI)の中の固有の名称をもつ組立単位であり,イギリスの物理学者J.P.ジュールにちなんで単位名がつけられた。エネルギーの一種である熱量の単位にはカロリー(cal)がよく用いられるが,SIではカロリーは推奨しがたい単位とし,ジュールが用いられる。1lの水の温度を1℃あげるのに必要な熱量は約1000calであり,ジュールを用いれば約4190Jとなる。CGS単位系のエルグ(erg)とは,1J=107ergの関係にある。
執筆者:大井 みさほ
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エネルギーおよび仕事の単位の一種.記号 J.1ニュートン(N)の力が物体に作用して,その方向に1 m 動かす間にその力がなす仕事.国際単位系(SI単位)の誘導単位の一つ.
1 J = 1 kg m2 s-2 = 1 N m = 107 erg.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(今井秀孝 独立行政法人産業技術総合研究所研究顧問 / 2008年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…1840年ごろ,ドイツの医師J.R.vonマイヤーは,瀉血(しやけつ)の際の患者の血の色がヨーロッパと熱帯の国々とで異なることに暗示され,力学的現象と熱現象を合わせて(さらにはもっと一般に他の形のエネルギーも含めて)エネルギー保存則が成り立たねばならないことを指摘した。実際,彼はそれに基づいて観測された気体の定圧,定積比熱の値の差から,(ジュールの実験を知らずに)理論的に熱の仕事当量の値のおおよその値を見積もることに成功している。同じころイギリスのJ.P.ジュールは,一定量の力学的仕事をすればどんな物質に対してもどんな方法ででもかならず一定の熱量が得られるはずだと考え,おもりの降下に伴う羽根車の回転によって容器内の液体をかき混ぜて熱を発生させ,この熱とおもりになされた仕事とを比べて,実験的に熱量1calが仕事4.19Jに当たることを確かめた(この数字が熱の仕事当量Jで,正しくはJ=4.186J/cal)。…
…カルノーの研究に注目し,カルノーの原理とルニョーの実験結果に基づいて,1848年絶対温度目盛を導入,のちに彼の名にちなみその単位はケルビンと名づけられた。また,1847年のJ.P.ジュールの熱の仕事当量に関する論文の重要性を高く評価し,熱と仕事の同等性の見地からカルノー理論の一般化を試み,51年独自に熱力学第2法則を定式化した。同年トムソン効果の名で知られる熱電気の研究を行い,翌年にはジュールとともにジュール=トムソンの実験として有名な細孔栓の実験を行ってジュール=トムソン効果を発見した。…
…導線に電流が流れると熱が発生する。これをジュール熱Joule’s heatといい,単位時間当りの発熱量は,電流の2乗と導線の電気抵抗の積に等しい。これがジュールの法則で,1840年にJ.ジュールが確立した。…
…ふつう,14.5℃の水1gを15.5℃に上げるのに必要な熱量を熱量の単位とし,カロリー(cal)と呼ぶ。また,MKS単位系で仕事の基本単位はジュール(J)である。これらの単位を使うとW/Q=4.186である。…
…1840年ごろ,ドイツの医師J.R.vonマイヤーは,瀉血(しやけつ)の際の患者の血の色がヨーロッパと熱帯の国々とで異なることに暗示され,力学的現象と熱現象を合わせて(さらにはもっと一般に他の形のエネルギーも含めて)エネルギー保存則が成り立たねばならないことを指摘した。実際,彼はそれに基づいて観測された気体の定圧,定積比熱の値の差から,(ジュールの実験を知らずに)理論的に熱の仕事当量の値のおおよその値を見積もることに成功している。同じころイギリスのJ.P.ジュールは,一定量の力学的仕事をすればどんな物質に対してもどんな方法ででもかならず一定の熱量が得られるはずだと考え,おもりの降下に伴う羽根車の回転によって容器内の液体をかき混ぜて熱を発生させ,この熱とおもりになされた仕事とを比べて,実験的に熱量1calが仕事4.19Jに当たることを確かめた(この数字が熱の仕事当量Jで,正しくはJ=4.186J/cal)。…
※「ジュール」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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