改訂新版 世界大百科事典 「ジャムチ」の意味・わかりやすい解説
ジャムチ (站赤
)
Jamchi
モンゴル帝国,元朝の駅伝制度。jamとはモンゴル語で〈道〉を,ジャムチはそれをつかさどる人の意をあらわす。すでにチンギス・ハーンの時代,欧亜にまたがる大帝国の巨大な版図を緊密に連絡する必要から設けられていたが,第2代オゴタイ・ハーンの時に整備され,諸ハーン国や属国などにも敷設されて相互の直接的な結びつきをはかった。元朝においてはジャムチ網が中国全域に及び,機能は多様化し制度もさらに改良された。站(たん)とよばれる駅は,站戸の供出による駅馬やその他必要物資を備え,公務旅行者や使節などに駅馬や食事を与え,接待を行った。站戸は,付近の民戸100戸が選ばれ,この負担の代わりに差役と一部地租を免除された。站を使用する者は,鋪馬聖旨,鋪馬劄子などの証明書を携行提示しなければならない。それには,駅站で受けるべき便宜が明記されており,軍用には牌札(円牌など)を帯びさせた。最も緊急を要する軍事連絡のためには,海青站が特別に置かれた。ジャムチ網の不正使用を監視するため,重要地点にはトトカソン(脱脱禾孫)が配置されていた。站には,普通に見られる馬站のほか,貨物輸送のための牛站,地域によっては水站,狗站などの種類がある。また公文書を送るため急逓鋪が置かれ,そこにつめる鋪丁とよばれる飛脚により,リレー式に郵送された。この制度は,情報収集・治安維持に大きな役割を果たしたが,のち濫用がたたって站戸が負担に耐えきれなくなり,自壊に向かうのである。
執筆者:原山 煌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報