スギゴケ(その他表記)hair-cap moss
pigeon wheat

改訂新版 世界大百科事典 「スギゴケ」の意味・わかりやすい解説

スギゴケ
hair-cap moss
pigeon wheat

厳密には蘚類のスギゴケ科のPolytrichum juniperinum Hedw.という特定の種を指すが,一般にスギゴケという名はスギゴケ属PolytrichumコスギゴケPogonatum総称として用いられる。両属は世界に約250種,うち日本に20種ある。茎は直立し,ほとんど分枝しない。葉は線状披針形で尖頭(せんとう),湿ると放射状に広く開出する。葉の表面に多数の薄板(1層の細胞からなる板状の構造)が縦走している。蒴(さく)は角柱状または円柱状で,上縁部を32枚または64枚の蒴歯がとり囲み,胞子は蒴歯の間から放出される。蘚帽は蒴を深く覆い毛を密生し,英名のhair-cap mossはこの性質に由来する。オオスギゴケPolytrichum formosum Hedw.は世界に広く分布し,日本では全国の山野に普通に産し,やや明るい場所の土上に群生する。社寺や人家の庭にも多く見られる。植物体は深緑色で大きく,高さ10cmを越えることが多い。蒴は角柱状。オオスギゴケとウマスギゴケP.commune Hedw.はともにコケ庭に利用される代表的な蘚類である。

 コスギゴケPogonatum inflexum (Lindb.) Lac.は東アジアに分布。全国の低山地の普通種で,崖などの土上に群生する。植物体は灰色をおびた緑色で高さ4cm以下,蒴は円筒状。

 スギゴケ属に近縁のネジクチスギゴケ属Dawsoniaは約10種を含み,オーストラリアからフィリピンにかけて分布する。植物体は一般に壮大で高さ50cmをこえ,葉の長さも3cmに達するものがあるが,これは直立するコケの中では最大である。蒴歯は糸状で多数集まり,毛筆状を呈する。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スギゴケ」の意味・わかりやすい解説

スギゴケ
すぎごけ / 杉苔
[学] Polytrichum juniperinum Willd. ex Hedw.

コケ植物スギゴケ科の1種。高さ3~10センチメートルで直立した茎をもち、葉は披針(ひしん)形で長さ4~9ミリメートル、乾くと緩く茎に接着して、全形が細長くみえる。葉の縁(へり)は内側に折れ畳んだようになり、表面にある薄板を覆うようになる。中肋(ちゅうろく)は葉の先端からすこし突出して芒(のぎ)のようになる。蒴(さく)の柄(え)の長さは、2~8センチメートル。蒴は四角柱状で、若いときは毛の多い帽(ぼう)(蘚帽(せんぼう))で包まれている。日本では北海道から九州にかけての高所にみられるが、分布域は世界各地と広い。

 スギゴケという場合、スギゴケ科の植物を総称して使われることが一般的である。日本で知られているスギゴケ科は6属約30種であるが、いずれも広く開出する葉をもち(まれに退化してなくなるものもある)、茎にはよく発達した中心束がある。蒴は円筒形球形、角柱形となるが、帽には毛が密生することが多い。すべて雌雄異株で、雄株では茎の先端部の葉が短く、幅広くなり、苞葉(包葉)(ほうよう)とよばれるものに変化して、多数の造精器を包む。オオスギゴケPolytrichum formosumは茎の高さ3~13センチメートル、葉の長さ7~11ミリメートルとなり、葉の縁は内側に巻き込まない。ウマスギゴケPolytrichum communeはオオスギゴケによく似ているが、葉の表面にある薄板の頂端細胞が凸形になっている。両種とも半日陰地の腐植土や湿原の近くなどに多いが、苔庭(こけにわ)の材料としても広く利用される。コスギゴケPogonatum inflexumはニワスギゴケともよばれ、低地の半日陰地の土の上に群生する。茎の高さ1~5センチメートル、葉の長さ5~8ミリメートルで、やや灰色がかった緑色。葉は乾くと著しく縮れる。蒴は円筒形で、長さ1~3センチメートルの柄の上に直立してつく。ハミズニワスギゴケPogonatum spinulosumは低地の半日陰地の湿土上に生えるが、茎、葉は退化してほとんどみられない。地表面に広がる青緑色の原糸体から出る胞子体は、高さ2~4センチメートルの柄をもち、蒴は円筒形となる。

[井上 浩]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「スギゴケ」の意味・わかりやすい解説

スギゴケ

スギゴケ科のコケ植物蘚類。体は緑色で茎葉の区別がはっきりしており,直立して生育,葉の表面には多数のひだがある。雌雄異株。胞子体は茎頂につき,長い柄の先に子嚢を生ずる。北半球の亜寒〜寒帯に広く分布し,日本には数種あるが,庭園などではオオスギゴケが最もよく見られる。一般にはコスギゴケなどこの仲間の総称となっている。
→関連項目コケ(苔)植物

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スギゴケ」の意味・わかりやすい解説

スギゴケ

「ニワスギゴケ(庭杉苔)」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android