日本大百科全書(ニッポニカ) 「スズコケムシ」の意味・わかりやすい解説
スズコケムシ
すずこけむし / 鈴苔虫
[学] Barentsia discreta
曲形(きょくけい)動物門足胞目バレントシア科に属する海産小動物。日本各地の沿岸に分布し、体長4.5ミリメートルぐらいで、数十個体が走根とよばれる器官で連なり、岩石、貝類、海綿類、ホヤ類、海藻類などの表面に着生する。体は萼(がく)部、柄部、走根からなり、萼部は透明な椀(わん)形で、上縁に20~24本の触手の冠がある。冠の中央部に口があり、微小生物を摂食する。走根から直立する柄部は、基部がよく発達した筋肉節と厚いクチクラに覆われた細長い部分からなる。クチクラは淡黄色ないし黄褐色で、ところどころに低い突起がある。この全体のようすが昆虫のクサカゲロウの卵塊の俗称であるウドンゲに似ているので、ウミウドンゲともよばれる。
刺激を受けると基部筋肉節の屈曲によって、萼が鈴を振るように動くのが和名の由来である。生活条件が悪くなると萼部は失われ、柄部と走根だけになり、条件が回復すると萼部は容易に再生する。そのためか基部筋肉節には養分が蓄えられている。柄部、走根の小片から完全に再生することは実験によっても確かめられている。また、なんらかの理由で柄部の屈曲が阻害されたとき、萼部の下に新しい柄部がつくられ、その繰り返しで複数の筋肉節をもつ個体もあり、その筋肉節にも走根を生ずる能力がある。季節的な休眠は行わず、休芽はみられない。繁殖は有性生殖によるほかに、走根の先端で無性的に増殖するが、幼生は変態して成体となる。
[紺野一碩]