スピルラ(その他表記)Spirula spirula

改訂新版 世界大百科事典 「スピルラ」の意味・わかりやすい解説

スピルラ
Spirula spirula

頭足綱トグロコウイカ科のイカで,多室に分かれたらせん形の貝殻をもつところからトグロコウイカの名もある。体長は約4.5cmと小型で,殻は25~35室からなり,それらを連絡する連室細管はオウムガイ類が各気室の中央を貫くのとは異なり,殻のらせんの内側に沿って存在する。殻は動物体が死滅してからも浮遊漂流し,海岸に流れつき,世界の熱帯地方沿岸ではかなりふつうに見られる。本種は海中では体後部を上に,頭腕部を下にしていて,日中は水深およそ500~700mを中心にすみ(最深950m),夜間は100~300mに上昇する。頭足類中唯一の例外として歯舌を欠いているが,後唾液(こうだえき)腺の乳頭状突起が大きな筋肉のしわとなっていて,この運動によって餌の小型甲殻類を口に運ぶ。卵は採集されたことはないが,海洋から採集された最小型は胴長が2mmで,貝殻の第1室ができている。マグロ類などの餌となっている。
イカ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「スピルラ」の意味・わかりやすい解説

スピルラ
すぴるら
spirula squid
[学] Spirula spirula

軟体動物門頭足綱トグロコウイカ科のイカ。和名をトグロコウイカといい、本種だけで1科をなす。殻のみに対してはram's horn shellの英名がある。太平洋インド洋大西洋水温10℃以下の深海中層に分布し、水深100~400メートルの範囲から採集される。死ぬと殻は浮上して海岸に打ち上げられるので、古くから殻は知られていたが、1910年に大西洋のカナリア諸島近海で初めて生きた個体が発見された。殻は長径30ミリメートル、殻口径7ミリメートルに達し、ほかのイカ類の甲(貝殻)と異なり、管状で巻く。管は緩やかに太くなり、多くの小室が連なって、成貝では約25室ある。また殻は、オウムガイ類のように背方でなく、腹方へ巻く。軟体は体長70ミリメートルに達し、円筒状の外套(がいとう)の後端に、左右に小さいひれがあり、その間のくぼみに発光器がある。巻いた殻は外套内にあり、後端の背腹に位置する。足は短いのが8本あるほか、細長い触腕が1対ある。生存期間は1年ぐらいで、繁殖期間は長い。

[奥谷喬司]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スピルラ」の意味・わかりやすい解説

スピルラ
Spirula spirula

軟体動物門頭足綱トグロコウイカ科。和名トグロコウイカ。太平洋,インド洋,大西洋の水温 10℃以上の中層を遊泳して,水深 100~200mにすむが,最深 1750mの記録がある。死ぬと殻は浮上して海岸に打上げられるので,殻は古くから知られていたが,生きた個体は 1910年に大西洋カナリア諸島沖で初めて採集された。軟体は 7cmに達し,円筒形外套膜の後端に巻いた殻があり,オウムガイのように小室が連結する。また後端の丸いくぼみに発光器がある。寿命は約1年。

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