日本大百科全書(ニッポニカ) 「スミシーズ」の意味・わかりやすい解説
スミシーズ
すみしーず
Oliver Smithies
(1925―2017)
アメリカの生理学者。イギリス生まれ。オックスフォード大学卒業、同大学で博士号取得。アメリカのウィスコンシン大学マディソン校教授を経てノースカロライナ大学教授。2007年、「胚性幹細胞(ES細胞)を利用してマウスの特定遺伝子を改変する基本原理の発見」によって、エバンス、カペッキとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。
動物は、たった1個の受精卵から分裂を繰り返して1個体を形成するが、このように身体のあらゆる種類の細胞になるのがES(Embryonic Stem)細胞である。人体を形づくるあらゆる細胞に分化する大もとの細胞であり、分裂する前の状態では自らを際限なく分裂させて増やすことができる特性をもっている。
1981年、エバンスはマウスの胚(受精卵)から、さまざまな細胞に分化するES細胞を初めてつくった。この研究はその後も発展を続け、1995年にはアメリカ・ウィスコンシン大学のグループがアカゲザルのES細胞株の樹立に成功、ついで1998年には同大学でヒトのES細胞株の樹立に成功した。
スミシーズは、ES細胞の中のある特定の遺伝子の機能を失わせ、それを別の受精卵に注入して代理母となる別のマウスに移植した。この母マウスから生まれるマウスは、正常な遺伝子と機能を失った遺伝子と両方をもつキメラマウスとなる。このキメラマウスからさらに目的とするマウスの純系を確立して、1989年に特定の機能が欠けている遺伝子をもったノックアウトマウスを作成した。
ノックアウトマウスは糖尿病、癌(がん)、心臓病など特定の病気を発症させる病気モデルマウスであり、病因究明や治療法開発などの研究に応用されるようになった。すでに500種類以上のノックアウトマウスがつくられ、医学研究に画期的な成果をもたらしている。
[馬場錬成]