胚性幹細胞(読み)ハイセイカンサイボウ(英語表記)embryonic stem cell

デジタル大辞泉 「胚性幹細胞」の意味・読み・例文・類語

はいせい‐かんさいぼう〔‐カンサイバウ〕【×胚性幹細胞】

embryonic stem cells》⇒ES細胞

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胚性幹細胞」の意味・わかりやすい解説

胚性幹細胞
はいせいかんさいぼう
embryonic stem cell

受精卵が分割してできた胚のように、あらゆる組織臓器に分化する可能性のある未分化な細胞。ES細胞と略称され、俗に「万能細胞」ともよばれる。体のすべての細胞は元は1個の受精卵に由来するが、ES細胞もそうした分化能力を保ったまま培養できる。マウスでは1980年代に開発され、実験動物に応用されている。1998年11月、アメリカ・ウィスコンシン大学グループが初めてヒトのES細胞作成に成功、再生医療の中核技術として世界的な注目を浴びた。ES細胞からさまざまな細胞がつくれることが各国の研究で確実になり、移植用の心臓や肝臓技術が現実的になるにつれ、欧米の宗教界などから受精卵を使うES細胞批判が起きてきた。2005年には韓国でヒトES細胞に関する論文捏造(ねつぞう)が発覚、卵子の違法採取でも問題があり、ES細胞への倫理批判が急速に高まった。こうした問題を解決したのが、2007年(平成19)京都大学再生医科学研究所教授の山中伸弥(1962― )らが遺伝子組み換え技術を応用し、ヒトの皮膚細胞などからつくった人工多能性幹細胞iPS細胞)である。胚性幹細胞は、ヒトへの実用化では人工多能性幹細胞に主役の座を譲ったが、動物実験蓄積なども豊富で、研究分野では非常に役だっている。マリオ・カペッキマーチンエバンス、オリバー・スミシーズが、胚性幹細胞を利用した遺伝子改変マウス(ノックアウトマウス)の業績で2007年のノーベル医学生理学賞を受けている。

田辺 功]

『中辻憲夫著『ヒトES細胞――なぜ万能か』(2002・岩波書店)』『クリストファー・T・スコット著、矢野真千子訳『ES細胞の最前線』(2006・河出書房新社)』『李成柱著、裴淵弘訳『国家を騙した科学者――「ES細胞」論文捏造事件の真相』(2006・牧野出版)』『アン・A・キースリング、スコット・C・アンダーソン著、須田年生監訳『幹細胞の基礎からわかるヒトES細胞』(2008・メディカル・サイエンス・インターナショナル)』『大朏博善著『ES細胞――万能細胞への夢と禁忌』(文春新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胚性幹細胞」の意味・わかりやすい解説

胚性幹細胞
はいせいかんさいぼう
embryonic stem cell

胎盤以外の体のどのような細胞にも分化できる多能性をもったまま,無限に増殖できる人工的な培養幹細胞。ES細胞,多能性細胞,万能細胞とも呼ばれるが,胎盤にはできないため「万能」は正確な表現ではない。受精卵が分裂してできる 100個程度の細胞の塊,胚盤胞の中にある内部細胞塊をばらばらにほぐし,体外で培養を続けることによってつくられる。1981年,イギリスのケンブリッジ大学のマーティン・エバンズ,マシュー・カウフマンがマウスの胚性幹細胞を作成したのが最初で,1998年にはアメリカ合衆国ウィスコンシン大学のジェームズ・トムソンがヒトの胚性幹細胞作成に成功した。マリオ・カペッキらは,胚性幹細胞をほかの胚に混ぜていわゆるキメラ動物(→キメラ)をつくる技術を開発,さらに特定の遺伝子を壊したり増強したマウス(ノックアウトマウス,トランスジェニックマウス)をつくる技術を創始して遺伝子研究に根本的な変革を起こした。胚性幹細胞は培養条件を変化させたり,蛋白因子などを加えたり,ほかの細胞とともに培養したりして,心臓,神経,膵臓,血液などの細胞に分化させることができる。この技術を利用して,機能が失われたり障害を受けた組織や臓器を再生しようというのが,いわゆる再生医療である。しかし胚性幹細胞には,生命の萌芽であるヒト受精卵を壊さなければならない,他人の胚性幹細胞からつくった組織や臓器は免疫的な拒絶反応を起こす,などの問題がある。これに対して人工多能性幹細胞はこれらの問題を回避できるため,医療利用が期待されている。

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化学辞典 第2版 「胚性幹細胞」の解説

胚性幹細胞
ハイセイカンサイボウ
embryonic stem cell

[同義異語]ES細胞

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「胚性幹細胞」の解説

胚性幹細胞

 →胚幹細胞

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