日本大百科全書(ニッポニカ) 「カペッキ」の意味・わかりやすい解説
カペッキ
かぺっき
Mario R. Capecchi
(1937― )
アメリカの生理学者。イタリア生まれ。アメリカ・ハーバード大学で博士号取得。同大学準教授を経てユタ大学教授。ハワード・ヒューズ医学研究所研究員。2007年、「胚性幹細胞(ES細胞)を利用してマウスの特定遺伝子を改変する基本原理の発見」によって、エバンス、スミシーズとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。1996年(平成8)に京都賞を受賞している。
動物は、たった1個の受精卵から分裂を繰り返して1個体を形成するが、このように身体のあらゆる種類の細胞になるのがES(Embryonic Stem)細胞である。人体を形づくるあらゆる細胞に分化する大もとの細胞であり、分裂する前の状態では自らを際限なく分裂させて増やすことができる特性をもっている。
1981年、エバンスはマウスの胚(受精卵)から、さまざまな細胞に分化するES細胞を初めてつくった。この研究はその後も発展を続け、1995年にはアメリカ・ウィスコンシン大学のグループがアカゲザルのES細胞株の樹立に成功、ついで1998年には同大学でヒトのES細胞株の樹立に成功した。
カペッキは、ES細胞の中のある特定の遺伝子の機能を失わせ、それを別の受精卵に注入して代理母となる別のマウスに移植した。この母マウスから生まれるマウスは、正常な遺伝子と機能を失った遺伝子の両方をもつキメラマウスとなる。このキメラマウスからさらに目的とするマウスの純系を確立して1989年にある特定の機能が欠けている遺伝子をもつノックアウトマウスを作成した。
ノックアウトマウスは糖尿病、がん、心臓病など特定の病気を発症させる病気モデルマウスであり、病因究明や治療法開発などの研究に応用されるようになった。すでに500種類以上のノックアウトマウスがつくられ、医学研究に画期的な成果をもたらしている。
[馬場錬成 2019年2月18日]