アメリカの学術研究機関。イギリスの化学者スミッソンJames Smithson(1754-1829)の遺産を基金にして1846年に設立された。スミッソンはノーサンバーランド公H.スミッソンの庶子として生まれたため,多額の遺産を相続したものの貴族としての特権を享受することができず,学問研究と旅行に人生の喜びを見いださざるをえなかった。そのためスミッソンは,自分の財産を学術研究と知識の普及に役立てようと決意したと考えられている。スミッソンは当初,イギリスのローヤル・ソサエティへ寄付するつもりだったが,ソサエティとの間に誤解が生じたこともあって,当時の額で50万ドルを超える莫大な遺産は大西洋を越えてアメリカに贈られることになった。スミッソンの遺言状には〈人間の知識の増進と普及のための機関を,スミソニアン協会という名称で,ワシントンに設立する〉と明記されていたが,協会の組織形態や活動内容をめぐってアメリカ議会で多くの論議があり設立に手間どった。この協会がアメリカ政府の保護のもとにありながら,実質的には独立機関として運営されているのは,以上のような設立の経緯を反映している。協会の理事会は,合衆国副大統領,合衆国最高裁判所長官のほか,3人の上院議員から成る。この理事会が,協会の実際上の最高責任者である所長を選び任命する。
初代所長には電磁気学の研究で有名な物理学者J.ヘンリーが就任した。彼は,知識の増進のために〈独創的な研究能力をもった人々に研究費を提供し〉,知識の普及のために〈科学の諸分野の進歩に関する定期的な刊行物を出版する〉ことによって,スミッソンの遺志の実現に努めた。このような方針は歴代の所長および理事会によって踏襲され,協会の活動の根幹を成している。またスミソニアン協会は,その傘下に多数の博物館,美術館,研究所を擁しており,世界的にも最大級の文化施設である。協会の主要な施設はワシントンにある。代表的なものを列挙すると,自然史博物館National Museum of Natural History,科学技術博物館National Museum of Science and Technology,航空宇宙博物館National Air and Space Museum,美術館National Collection of Fine Artsなどである。また,天体物理学研究所Smithsonian Astrophysical Observatory,放射線生物学研究所Radiation Biology Laboratoryなど各種の研究所がアメリカ各地に散在している。スミソニアン出版局Smithsonian Pressは,学術的・専門的な書物や雑誌・パンフレットのほか,啓蒙的な性格の出版物も数多く刊行している。
執筆者:成定 薫
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…大都市ニューヨークにはアメリカ自然史博物館(1869),メトロポリタン美術館(1870)など世界有数の博物館がつくられた。1835年,アメリカ政府はイギリス人スミッソンJames Smithsonの遺言により10万ポンドの寄金を受けたが,これを基にスミソニアン協会Smithsonian Institutionが創設された。この機関は永いあいだアメリカ合衆国の唯一の国立研究機関として機能してきた。…
※「スミソニアン協会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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