物理学の一分野で,電気磁気現象を対象とする。力学とともに古典物理学の中心的位置を占める。1860年代にJ.C.マクスウェルにより完成された。電磁気学の中心問題は,電荷や電流が空間に分布しているとき,それらの間にいかなる力が働くかということであるが,それを記述するのに,近接作用の観点から,電場および磁場の概念を用いるところに電磁気学の大きな特徴がある。ニュートンの万有引力の法則では,離れた場所にある二つの物体の間で力が直接働くという遠隔作用の観点がとられる。それに対し,力は直接接触している物の間にだけ働くという,いわば素朴な見方が近接作用の観点である。ニュートン力学は物理学のすべての分野の規範であったから,19世紀前半までの電磁気学でも遠隔作用の観点がとられていた。近接作用を電磁気学にもちこんだのはM.ファラデーであり,それにみごとな数学的定式化を与えたのがマクスウェルである。近接作用の観点から電磁気学の中心問題を述べれば,(1)電荷や電流は周囲の空間にいかなる電場,磁場をつくるか,(2)電場,磁場は電荷や電流にいかなる力を及ぼすかということである。
まず上の(2)の答えは,ローレンツ力により与えられる。ある場所の電場をE,磁束密度をBとすると,そこに静止している電荷qの粒子には力qEが働く。粒子が速度vで動いているときには,上の電気的な力のほかにvおよびBのどちらとも直交する磁気的な力qv×Bが働く。ここでv×BはベクトルvとBのベクトル積を意味する。上の二つの力をまとめてF=q(E+v×B)と表し,これをローレンツ力と呼ぶ。実は電場Eと磁束密度Bの定義自身が上記の力の表式によって与えられるのであるが,電荷に働く力がつねに二つのベクトル場(EとB)によって上のように表されることは,実験から得られた経験法則である。電流は電荷の運動の集りであるから,電流が磁場から受ける力は上のローレンツ力から導かれる。
前述の(1)に答えるのがマクスウェルの方程式である。これは電場,磁場の時間的および空間的変化を,電荷と電流の分布から定める式で,それまでに知られていた電磁気学の法則をマクスウェルが集大成し,一般化したものである。すなわち,静電場に対するクーロンの法則,静磁場に対するビオ=サバールの法則(あるいはアンペールの法則),磁場が時間変化するときの電磁誘導の法則,電場が時間変化するときの変位電流の法則が,マクスウェルの方程式の中に含まれている。マクスウェル方程式は時間および空間座標についての偏微分方程式であり,その解として,電場,磁場が波,すなわち電磁波として伝搬する可能性を示したことが最大の成果である。この予言は1888年H.R.ヘルツにより実証された。電磁波では,電場,磁場とともにエネルギーと運動量が空間を伝搬する。これにより,電場,磁場は単に現象を記述するための便宜的な概念ではなく,物理的な実在であることが明らかになった。
→マクスウェルの方程式
以上では,真空中に電荷や電流が分布しているときにつくられる電場,磁場を問題にした。いわば真空中の電磁気学である。それに対し,気体,液体,固体などの物質中の電場,磁場を求めることも,応用上重要である。物質は,電気的性質に着目するとき誘電体(絶縁体)と導体に大別され,磁気的性質に着目するとき反磁性体,常磁性体,強磁性体に大別される。ファラデーとマクスウェルはこれらの物質中の電磁場を現象論的に扱ったが,本来物質はイオンや電子などの電荷,電流の集りであるから,物質中の電場,磁場が満たす法則は,真空中のマクスウェルの方程式から導き出せるはずである。それを実際に示したのがローレンツの電子論(1908)である。マクスウェルの方程式は,ニュートンの方程式と並ぶ古典物理学全体の基礎法則である。
執筆者:加藤 正昭
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電気現象、磁気現象に関する諸法則の体系を電磁気学という。光学はこの体系に含まれる。
電磁気学の歴史は古く、その現象の発見は古代にさかのぼることができる。電気現象は、摩擦したこはくが糸屑(いとくず)などを吸い付けることとして、一方、磁気現象は、磁石が鉄片を吸い付けたり、南北をさしたりすることとして、認識されていた。18世紀末、帯電体間の力、磁極間の力に関するクーロンの法則が発見された。しかし、当時は、電気現象と磁気現象とはまったく別の現象だと考えられていたし、光学も独自の道を歩んでいた。また万有引力に対する当時主流だった考え方の影響で、電磁的な相互作用も遠隔作用であると考えられていた。1799年ボルタによって電池が発明されて電流が容易に得られるようになり、1820年にはエルステッドが電流の磁気作用を発見した。続いて1831年ファラデーが磁気から電流が得られること、すなわち電磁誘導を発見し、ここに至って電気学と磁気学とが統一への道を歩み出した。またファラデーは、電気的および磁気的相互作用の概念として、当時主流だった遠隔作用にかわって近接作用を考え出した。マクスウェルの方程式は、ファラデーの近接作用の考えを数学的に表現したものということができる。そして1864年マクスウェルによって電磁場の基礎方程式が提出され、この統一がなされた。この方程式の波動解が光の性質をすべて説明することもまもなくわかり、光学も含めて、電磁気学の体系が誕生した。しかしマクスウェルの方程式だけでは電磁気学の諸法則のすべてを導くことはできない。物質中の電磁気現象には、量子効果と統計性が深くかかわってくるし、真空中の電磁場の諸法則のなかでさえ、その導出において、かならずしも自明とはいえない仮定が用いられている場合がある。また、一つの電荷が自分自身のつくる電磁場と相互作用する効果は説明されていない。
その後、運動物体中の電磁場に関する研究から特殊相対論が生まれた。また物質と電磁場との相互作用の研究から量子論が生まれた。さらに応用分野として、電気光学、電子工学、エレクトロニクスなどが生まれた。今日、電磁気学は、力学とともに、自然科学すべての基礎をなしている。電磁気学の発展と応用は人類の文明史上にもっとも画期的な進歩をもたらした。
なお、時間変化する電磁場を取り扱う場合には、電磁気学はとくに電気力学ともよばれる。
[安岡弘志]
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… 彼の才能は,14歳のときエジンバラ王立協会に発表した卵形曲線の作図法やエジンバラ大学教授のJ.D.フォーブスの下で行った色彩学の研究などにより早くから認められていた。彼の研究は古典物理学全域に及んでいるが,その最大の成果は電磁気学を確立したことである。フランスのA.M.アンペール,ドイツのW.E.ウェーバーらが進めてきた遠隔作用の考え方を中心とする電気力学に対して,当時のイギリスにはケンブリッジ大学を中心に別の方法を求めようとする気運があった。…
※「電磁気学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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