改訂新版 世界大百科事典 「ズビニコウチュウ」の意味・わかりやすい解説
ズビニコウチュウ (ズビニ鉤虫)
Ancylostoma duodenale
人体寄生線虫の1種。1838年イタリアのドゥビニAngelo Dubini(1813-1902)がミラノの一婦人の剖検の際発見し,43年命名したが,前1600年ころの古代エジプトのパピルス文書にすでに本種と思われるものの記載があるという。成虫はヒトの小腸上部に寄生し,粘膜に咬着して吸血し,鉄欠乏性貧血をもたらす。雌虫は体長約11~14mmで,1日に1万~2万個の虫卵を産む。卵は楕円形で長径50~60μm,短径40~45μm,卵殻は無色で,その内容は通常新鮮な糞便内では4細胞に分裂している。外界に出た虫卵は,地上で孵化(ふか)してラブジチス型幼虫となり,細菌や有機質を摂取して発育し,脱皮してやがてフィラリア型幼虫になり感染の機会を待つ。ヒトへの感染は主として経口的に行われ,小腸粘膜に侵入して一定の発育をした後,管腔に出て成虫となる。ただし,一部の幼虫は粘膜に侵入後,血行を介して肺に移行し,気管,咽頭を経て小腸に達することがあり,皮膚から感染することもあるが,肺では発育せずに小腸に達する点,肺において著しい発育を遂げるアメリカコウチュウと異なる。ズビニコウチュウが肺から気管を経て咽頭に達する際,悪心,嘔吐,腹痛,下痢などの消化器症状のほかに,咽喉頭部に激しい搔痒(そうよう)感または痛みを感じ,続いて咳嗽(がいそう)発作をきたすことがある。これらの症状は,ダイコンの間引菜など若菜の一夜漬を食した後で起こるので,かつて若菜病と呼ばれた。好酸球増加や一過性の蕁麻疹(じんましん)の出ることもあり,アレルギー反応の一種と考えられる。
→アメリカコウチュウ →コウチュウ
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報