蕁麻疹(読み)ジンマシン(その他表記)urticaria

翻訳|urticaria

精選版 日本国語大辞典 「蕁麻疹」の意味・読み・例文・類語

じんま‐しん【蕁麻疹】

  1. 〘 名詞 〙 急に皮膚がかゆくなり、赤いみみずばれのような浮腫が広がり、数分から数時間ぐらいで消える発疹。形や大きさは不定。全身どこにでも発生する。食物・薬品・花粉などによるアレルギー反応、寒冷刺激・機械的刺激などに対する皮膚血管の過敏反応による。かざうるし。
    1. [初出の実例]「蛔虫が湧いておる。蕁麻疹(ジンマシン)の徴候もあるようだ。それにお前は風邪気で皮膚病だ」(出典:鱸とおこぜ(1952)〈阿川弘之〉)

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改訂新版 世界大百科事典 「蕁麻疹」の意味・わかりやすい解説

蕁麻疹 (じんましん)
urticaria

通常は,1~数時間の経過をたどる,かゆみを伴った境界のはっきりした皮膚の浮腫をいう。浮腫は真皮の上層にみられるが,それは肥満細胞からヒスタミンが遊離され,その作用によって血管の透過性が増すため血漿が組織内へ流出して生じたものである。この肥満細胞からのヒスタミン遊離はⅠgE抗体(レアギン)と抗原とによるⅠ型アレルギーによってひき起こされるが,これとは別にヒスタミン遊離物質が直接肥満細胞に作用してもヒスタミンの遊離が生じる。したがって,Ⅰ型アレルギーによって蕁麻疹が生じるのは確実であるが,他方,すべての蕁麻疹がⅠ型アレルギーによって起きるとはいえない。このように蕁麻疹はアレルギー性疾患の典型とみなされているが,実際は非アレルギー機序によるもののほうが多いともいわれている。

症状は,突然,境界が明確な円形~地図状など種々な形状,大きさの扁平に隆起した皮疹(膨疹)が生じ,激しいかゆみがある。色調も白色~紅色,さらに出血性のものもあり,生じる範囲もさまざまである。このような蕁麻疹発作が1回,あるいは数日で終わるものを急性蕁麻疹,それが1ヵ月以上反復するものを慢性蕁麻疹として区別している。病因は多様であるが,アレルギーによる場合の抗原としては,食物(魚介類,肉類,卵,乳製品,ダイズなど),薬剤(抗生物質,サルファ剤,血清など),生活環境に由来する物質(花粉,塵埃(じんあい),ダニ,香料など),生体内で産生される物質(炎症,腫瘍,代謝異常などによる)がある。また病因として,消化器障害,とくに胃液酸度の低下が注目されたこともある。絶食により消化管に休息と修復の機会を与えると症状が改善される場合もあることからも,消化器障害が発症因子となりうることがわかる。また,炎症,ことに病巣感染の影響についても見逃すことはできない。一方,肝臓障害との関連については,まだ明白な因果関係の解明はなされていないが無視しえない。いずれにしろ慢性蕁麻疹では,全身的背景を知る目的での広範な一般臨床検査が必要となる。

 蕁麻疹が反復する場合は,原因物質を自覚しがたいことが少なくない。そのようなときには,吸入性抗原や食品添加物(食用色素,防腐剤など)が原因物質となっていることが多い。食品添加物が蕁麻疹を生じる機序についてはまだ不明の点もあるが,これがアラキドン酸からのプロスタグランジンE2生成を減少させるため,環状AMPの低下をきたしてヒスタミンが遊離するとも,あるいは補体系を活性化するためともいわれている。

 一方,そのもの自体にヒスタミンやアセチルコリンなどを多量に含むものを仮性アレルゲンというが,この場合は仮性アレルゲンが直接に血管に作用して,その透過性を亢進させる。これには,ホウレンソウ,ナス,ソバ,たけのこ,サトイモ,古くなった魚介類などがある。

 物理的刺激による場合もまれではない。圧迫,摩擦などにより生じるものを人工蕁麻疹(皮膚描記症),寒冷にさらされたとき生じるものを寒冷蕁麻疹,一方,温熱によるものを温熱蕁麻疹と呼ぶが,これはアセチルコリンが誘発物質である。日光に当たることにより生じるもの(日光蕁麻疹)もあるが,まれである。このほか,心因性で生じるもの,あるいは疲労,ストレスにより発汗を伴って生じるコリン性蕁麻疹などがある。

治療の基本は,アレルギー性,非アレルギー性に関係なく,原因となる物質あるいは因子を解明して,それを徹底的に避けることである。このためには,誘因,発症時期,好発部位,精神的・身体的状況,生活環境などを詳細に知る必要がある。次に一般臨床検査,免疫学的検査,病巣感染検査,物理学的検査,負荷試験,スクラッチテスト,性格検査などが行われる。こうして病因が確定すればその除去が根本となるが,食物,薬剤などの原因物質を避けることが比較的容易であるのに対して,吸入性抗原などはそれが困難であり,従来は特異的減感作療法が施行されていた。しかしながら,この方法は,まれに重篤な反応(ショック)をひき起こすことなどにより,現在では再検討されつつある。

 病因が不明な蕁麻疹,あるいはなんらかの治療を行っても症状の軽快しないような場合には,対症療法として抗ヒスタミン剤が日常最も多く使用されている。抗ヒスタミン剤は,細胞膜にあるとされるヒスタミンレセプターに競合的に働くため,蕁麻疹の発現をおさえ,かゆみを止める効果がある。抗ヒスタミン剤の種類はきわめて多く,それぞれ抗ヒスタミン作用には大差がないが,抗コリン作用,抗アドレナリン作用,抗セロトニン作用,中枢神経抑制作用,あるいは作用時間などに特徴があるため,症状によって使い分けることがたいせつである。副作用として問題となるのは催眠作用で,車の運転など危険作業の従事には注意しなければならない。最近では,肥満細胞自体からのヒスタミン遊離を抑制する薬剤が新たに使用されはじめている。副腎皮質ホルモン剤は,ショック時には投与されるが一般には使用しない。非特異的減感作療法も古くから行われ,ある程度の効果もあげている。局所療法は,本来蕁麻疹が表皮の病変ではないため,治療の主体にはならない。なお,日常生活上の注意としては,ベルトなどで身体を強く締めぬこと,高温の入浴を避けること,精神的安静を保たせることなどがある。
アレルギー
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家庭医学館 「蕁麻疹」の解説

じんましん【じんま疹 Urticaria】

◎いくつかの種類がある
[どんな病気か]
 じんま疹は10~20%の人が一生に一度は経験するといわれるほど多い皮膚の病気です。皮膚に小さな膨(ふく)らみ(膨疹(ぼうしん))が急にでき、それがいろいろな形、大きさに広がり、周囲には赤み(紅斑(こうはん))がみられます。そして強いかゆみがあります。ふつう、これらの症状は数時間以内に消えますが、なかには1日以上残るものもあります。症状が激しいときには、まれに、のどの粘膜(ねんまく)が腫(は)れ、呼吸困難になることもあります。
●じんま疹の種類
 じんま疹にはいくつかの種類があります。ふつうにみられるじんま疹(1か月以内に治ってしまう急性(きゅうせい)じんま疹と、それ以上たっても治らない慢性(まんせい)じんま疹があります)のほかに、皮膚をかくと出る機械性(きかいせい)じんま疹(人工(じんこう)じんま疹)、冷たいものに触れると出る寒冷(かんれい)じんま疹、汗をかく状態になると出るコリン性じんま疹、日光に当たると出る日光(にっこう)じんま疹、さらになにかの物質(たとえば牛乳など)が触れたところから出る接触(せっしょく)じんま疹などがあります。
 ほかにもいくつかありますが、以上が日常よくみかけるものです。まぶたや唇(くちびる)、外陰部などが腫れるクインケ浮腫(ふしゅ)(血管性浮腫(けっかんせいふしゅ))もじんま疹の1つです。
●じんま疹がおこるしくみ
 じんま疹がおこるしくみにはいくつかあります。大きくアレルギー性とアレルギー性でないものとに分かれます。
 アレルギー性のものはIgE(免疫(めんえき)グロブリンE)という血清(けっせい)中の抗体(こうたい)が関係しています。たとえば、食べ物の成分(抗原(こうげん))に対するIgE抗体がからだの中にできると、皮膚のマスト細胞の細胞膜上で抗体と抗原との反応がおこり、そのマスト細胞からヒスタミンという物質が出て、じんま疹がおこるのです。
 ほかにもいろいろなかたちでIgEがじんま疹の発症にかかわっていることがわかってきています。
 また、補体と呼ばれる物質がアレルギー反応によって活性化されておこるじんま疹もあります。この場合は膨疹や紅斑が長く残り、ときに膠原病(こうげんびょう)などの全身性疾患にかかっている可能性もあります。
 麻薬類やある種の抗生物質などが、アレルギー反応をおこさないでマスト細胞からヒスタミンを出させ、じんま疹をおこすこともあります。また、アスピリンや非ステロイド系消炎鎮痛薬、アゾ色素などは、じんま疹を悪化させることがあります。
 さらに最近、精神的ストレスによって神経末端から出る神経ペプチドという物質も、じんま疹をおこす可能性のあることがわかってきました。
[原因]
 じんま疹はいろいろな原因でおこります。たとえば、薬物、食物、感染(細菌、ウイルス、真菌(しんきん)など)、虫刺され、物理的な刺激、心因(精神的ストレス)、そしてほかの病気に合併するものなど、じんま疹をおこす引き金になるものはきわめてたくさんあります。
 急性じんま疹では比較的原因を見つけやすいのですが、慢性じんま疹ではなかなか原因がわからないことが多いのです。さらに、全身性疾患の初発症状として、あるいはその部分症状としてじんま疹がおこることもあります。じんま疹をおこす全身性疾患には、膠原病、血管炎、免疫異常、感染症、血清病、薬疹(やくしん)・中毒疹(ちゅうどくしん)、内臓悪性腫瘍(しゅよう)、消化器病変などいろいろなものがあります。
[検査と診断]
 じんま疹の診断は、その症状からさほどむずかしくはありません。しかし、じんま疹がおこるしくみや原因を探しだせないことはしばしばあります。じんま疹の原因は、検査をすればすぐわかるというものではないのです。そこで、検査を受けるときには、じんま疹が出るときの状況、じんま疹の症状や経過、体調などをできるだけ詳しく医師に伝えることがとてもたいせつです。医師はそれらの情報をもとにして、どのような検査をすればよいかを決めるのです。
◎慢性の場合は根気よく治療
[治療]
 じんま疹の治療でもっともたいせつなことは、原因を見つけ、それを取り除くことです。しかし、じんま疹、とくに慢性じんま疹では、原因を見つけ出すことがむずかしいことが多いため、まず薬物によって症状を抑える対症療法が行なわれます。
 日常みられる多くのじんま疹はヒスタミンによっておこるものです。そこで、薬物療法としてはヒスタミンの作用を抑える抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー)がまず選ばれます。たくさんの製剤がありますが、それぞれの薬の効果や副作用(眠けなど)の現われ方には個人差があるため、漫然と同一の薬を使うのではなく、常にその薬剤の効き方や副作用をチェックしておくことがたいせつです。
 慢性じんま疹の場合、かなり長期間、抗ヒスタミン薬を服用することになります。じんま疹がおこったときだけ服用するのではなく、症状がないときでも2週間程度続けて服用し、医師の指示によってしだいに減量していきます。抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬も同様に使用されます。
 副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)薬の服用や注射による全身投与は、症状が激しいときや、特別な型のじんま疹に対してだけで、通常のじんま疹には使われません。
 そのほかにもいくつかの治療法がありますが、専門医の指示に従って行なうことがたいせつです。
[日常生活の注意]
 じんま疹を悪化させる因子、たとえば、飲酒、解熱鎮痛薬の使用、高温、ストレスなどを避けるように心がけましょう。また、自分自身で悪化因子に気づいたときには、いうまでもなく、それを避けるようにしましょう。
 じんま疹、とくに慢性じんま疹は難治性のやっかいな病気ですが、けっして治らないわけではありません。専門医を受診し、正しく診断してもらい、医師の指示に従って適切な治療を根気よく続ければ、たいてい軽快します。

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百科事典マイペディア 「蕁麻疹」の意味・わかりやすい解説

蕁麻疹【じんましん】

皮膚にかゆみを感じ,かくと境界の鮮明なミミズ腫れ状に隆起した爪甲(そうこう)大から手掌大までの発疹を生ずる病気。数分から数時間で消退し,後に変化を残さないが,発作性に反復して発疹する。皮膚を鈍器でこすると潮紅,浮腫を生ずる(皮膚描記症)。多くは数日で治癒(ちゆ)するが,慢性に1ヵ月以上発疹の止まらないものもある。原因は自家感作(かんさ)や,月経障害,妊娠,食品,薬品,昆虫刺傷などによる感作,温熱,寒冷,機械的刺激,光線などに対する異常反応,細菌感染の遠隔反応,胃腸・肝・腎疾患,また内分泌障害の一現象,精神的因子などが考えられる。治療は原因の除去のほか,急性症には副腎皮質ホルモン剤抗ヒスタミン薬の投与,慢性症には,このほか自家血清,造血薬など。
→関連項目アレルギー性疾患アレルギー反応光線過敏症ジフェンヒドラミン小児ストロフルス中毒疹皮膚病

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世界大百科事典(旧版)内の蕁麻疹の言及

【発疹】より

…内容物は液体,角質細胞,脂肪などである。(7)蕁麻疹(じんましん)または膨疹urticaria∥wheal 境界のはっきりした浮腫性の扁平に盛り上がる紅色の病変で,かゆみが強い。一過性で30分から1時間以内であとかたもなく消失する。…

【アレルギー】より

…〈変化した反応能力〉〈変作動〉という意味で,ある外来性の物質と接した生体が,この物質に対して,それまでとは変わった反応性を示す場合を指す。たとえば,ペニシリンの注射を受けているうちに,この薬剤に対して過敏となり,ペニシリンの注射によってショック死を起こすような場合(ペニシリンショック)や,魚や卵を食べると蕁麻疹(じんましん)が起こるような場合がこれに一致する。また,こうした外来の物質に対して過敏な状態にすることを感作sensitizationという。…

【痒み】より

…皮膚に原因のあるかゆみは,その上皮層あるいはそれよりも深い真皮層外層部がおかされたときにみられる。湿疹では上皮層がおかされ,蕁麻疹(じんましん)のときには真皮層外層部に異常がある。これらの皮膚病によるかゆみは,いずれもかゆみをおこす発痒物質が作られたために生ずる。…

※「蕁麻疹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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