カバ(読み)かば(英語表記)kawa

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カバ」の意味・わかりやすい解説

カバ(河馬)
かば / 河馬
hippopotamus
river horse
[学] Hippopotamus amphibius

哺乳(ほにゅう)綱偶蹄(ぐうてい)目カバ科の動物。この科にはほかにコビトカバChoeropsis liberiensisが含まれ、2属2種である。本種はかつてはアフリカ中の河川に生息していたが、20世紀後半には、クルーガー国立公園など2、3の保護区を別にすれば、スーダンのハルトゥーム以北と南部のザンベジ川以南ではほとんど絶滅してしまった。生息地は河川、湖沼で、日中はほとんど水中で生活する。

中川志郎

形態

陸生動物中ゾウに次ぐ体重をシロサイと競い、成獣の雄では体長4.2メートル、肩高1.5メートル、体重は3トンに達する。雌はこれよりもやや小さく体重1.5~2トンほどである。体形としてはブタに似るが頭部は大きく、巨大な体を支える四肢は円柱状をなし、4本の指は間が離れていて水かきがあり、先端にはひづめ状の平づめがある。顔は長く平らで、目の部分はその面から上部に突出してつき、鼻孔もやや突き出し、裂孔を形成する。耳は小さく可動性である。体表の毛は極端に少ないが、口端や耳、尾端部にはまばらな剛毛を生やしている。体色は暗赤褐色で、皮膚の小孔から「血汗(けっかん)」とよばれる赤褐色の液体を分泌し、皮膚を保護している。歯式は

で合計38~40本。犬歯は大きな牙となり、しばしば上あごを突き抜けて上方に出る。その長さは50~75センチメートル、重さ3、4キログラムに達するものがある。厚皮動物の名でよばれるように皮膚は厚く、場所によっても異なるが3、4センチメートルもあり、さらに皮下脂肪は4~7センチメートルに及ぶ。

[中川志郎]

生態

通常20~100頭の群れをなして生活し、日中のほとんどを水中で過ごす。目と鼻の穴だけを水面に出し、怪しいものが近づくと、すぐに水中に潜って隠れる。行動はおもに早朝と、夕方から夜にかけて行われ、水辺の草を長い時間をかけて食べる。縄張りの要所には糞塚(ふんづか)をつくるが、排糞時に尾を左右に振り回して、糞を飛び散らす特技がある。水中での行動は実に軽快であるが、皮下に分布する脂肪層が浮き袋的役目をすると考えられている。発情期はとくになく、交尾は水中で行われる。妊娠期間はおよそ7、8か月で、1産1子。新生子は体重30~40キログラム、体長90センチメートル、体高45センチメートルほどである。出産は、水中、陸地いずれでも行われるが、通常は水辺の浅瀬が多い。子は、出産後すぐに泳ぐことができ、哺乳は水中で行われる。水中に潜っていられる時間は普通1分程度であるが、何かに驚いたときには数分間にわたることがある。寿命は40~50年といわれる。日本のカバの繁殖では、名古屋市東山動植物園が有名で、1952年(昭和27)来園の重吉と1954年来園の福子のペアは19頭の子を産み、その子孫は全国の動物園で飼育されている(福子は1997年8月、重吉は2001年4月死亡)。

[中川志郎]

『宮嶋康彦著『河馬の方舟――動物園の光と影』(1987・朝日新聞社)』『宮嶋康彦著『アフリカ・カバ探検――カバのふるさとウガンダ取材記』(1996・偕成社)』『宮嶋康彦著『だからカバの話』(朝日文庫)』



カバ(コショウ科)
かば
kawa
[学] Piper methysticum Forst.f.

コショウ科(APG分類:コショウ科)のつる性低木。太平洋諸島原産で、栽培もされる。カバはトンガ語で「苦い」の意味で、島によりアバ、カワカワ、シャカオなどともよばれる。高さ2.5~3メートル、葉は心臓形。根は塊状で苦味があり、メシスチシン、カワインのほか、麻酔作用のあるカバ樹脂を含む。根から同名の飲料カバをつくる。宴会や儀式などの際、根の粉末と水を大きな木鉢に入れ、樹皮の繊維の束でかき回して抽出し、ヤシの実の殻のコップに取り分けて食前に飲む。その調整と飲用は厳粛に儀式化されている。泡立っていてすこし苦味があり、ややビールに似た風味がある。アルコール分はないが、飲めば酩酊(めいてい)し、眠気を催す。飲みすぎると中毒症状をおこす。

[星川清親 2018年7月20日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カバ」の意味・わかりやすい解説

カバ
Hippopotamus amphibius; hippopotamus

偶蹄目カバ科。体長 4.6m,体高 1.5m,体重 4tになるといわれる。体はほとんど裸出しており,短い剛毛が散生する。体色は赤褐色ないし暗褐色で,体下面は桃色を帯びる。頭部は大きく,体が水中に没しても,耳,眼,鼻孔だけを水面に出すことができるようになっている。陸上で皮膚から赤色の分泌液を出すことがある。夜行性で,水辺の草地で草を主食として生活する。妊娠期間は 230~240日。1産1子で,3~5kgの子を産む。子は水中で乳を飲む。かつてはナイル川にも生息したが,現在はサハラ砂漠以南のアフリカにのみ分布する。なお,現生のカバ科 Hippopotamidaeには,本種とコビトカバの2種が含まれるのみである。

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