(読み)ねつ

精選版 日本国語大辞典 「熱」の意味・読み・例文・類語

ねつ【熱】

〘名〙
① 触れたり、近づいたりした時などに、肌(はだ)に感じるあつさ。また、気候の暑いこと。〔詩経‐大雅・桑柔〕
② 物を温めたり焼いたりする力。
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉七「大陽の熱によりて、水は、変じて水蒸気となり」
温度の異なる二つ物体の間で、高温側から低温側に移動するエネルギー。その移動の仕方は、伝導対流、放射に分類される。孤立した物体に移動した熱はその内部エネルギーの増加となり、また、その物体のする仕事として消費される。
病気などによって平常より高くなった体温
浄瑠璃・日本振袖始(1718)四「熱の差引き、様々の看病験しもなし」 〔漢書‐西域伝〕
⑤ 「ねつびょう(熱病)」の略。
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉五一「道中などでは熱病(ネツ)になりやすいものなれば」
⑥ あることに精神を集中すること。熱中すること。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「シンイノ netuo(ネツヲ) サル
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生の顔「真剣味とか、熱とかがもっと露骨に出てはゐたね」
⑦ 一時的に興奮すること。のぼせること。「熱が冷める」「熱をあげる」
浮世草子好色二代男(1684)八「我おほしめしての御事(ネツ)とはおもはれず」 〔陶潜‐形影神、影答形詩〕
⑧ 身勝手な気炎気勢。「熱を吹く」
稲熱病(いもちびょう)をいう。
※稲熱病(1939)〈岩倉政治〉二「今までねつ(稲熱病)の出る年は、まっさきにやられて村でも評判のところぢゃったれど」

ほとおり ほとほり【熱】

〘名〙 (動詞「ほとおる(熱)」の連用形の名詞化)
① 熱気を発すること。また、熱気。火熱。
※書紀(720)神代下(鴨脚本訓)「熱(ホトヲリ)を避りて居(ま)しますときに」
② 身体の熱。特に、病気などで高くなった熱。ほとり。
※浮世草子・嵐無常物語(1688)上「御子息ほうそうほとほり殊の外の大事」
※浄瑠璃・御所桜堀川夜討(1737)三「早玉の緒も切れ果てて〈略〉ほとほりばかりにて」
※浄瑠璃・曾我扇八景(1711頃)上「ほとをりさめぬ武士共馬印旗印」

ねっ‐・する【熱】

[1] 〘自サ変〙 ねっ・す 〘自サ変〙
① 熱が生じる。あつくなる。発熱する。ねす。
※延慶本平家(1309‐10)三本「身中する事火燃が如し」
② 物事に熱中してあつくなる。興奮する。夢中になる。
※小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉五「才芸は年齢に拘らず勉励の功を積むに随ひて熱すべし」
[2] 〘他サ変〙 ねっ・す 〘他サ変〙 熱を加える。あつくする。あたためる。
※機械(1930)〈横光利一〉「アニリンをかけた真鍮の地金をアルコールランプの上で熱しながら」

あつつ【熱】

[1] 〘感動〙 熱いものにさわった時に発する声。あちち。あちゃ。
※名語記(1275)八「あつつといへる如何。あはつるもれの反、あはてるたるの反、いたたるたるの反、熱たるの反」
[2] 〘名〙 ((一)から転じた幼児語)
① 火をいう。
② 火傷をいう。
③ 灸(きゅう)をいう。あっつう。
※浄瑠璃・志賀の敵討(1776)八「母様はな、あつつをすへに行によって、晩から父様が抱て寝る」

ほ‐め・く【熱】

〘自カ四〙 (「めく」は接尾語)
① ほてる。熱くなる。上気する。赤くなる。〔天正本節用集(1590)〕
※俳諧・鷹筑波(1638)二「くっくとほめくあらかねの土 火花をもちらして打や刀かぢ〈重次〉」
② 欲情をもよおす。情事をする。男女が互いに戯れ合う。いちゃつく。
※浄瑠璃・忠臣金短冊(1732)四「そちらで早う、ほめけほめけ」

ほ‐めき【熱】

〘名〙 (動詞「ほめく(熱)」の連用形の名詞化)
① ほてること。熱くなること。上気すること。ほてり。熱気。
※浄瑠璃・平仮名盛衰記(1739)五「太刀のほめきをさまさんと」
② 欲情をもよおすこと。情事をすること。男女が互いに戯れ合うこと。いちゃつくこと。
※浄瑠璃・甲賀三郎窟物語(1735)三「座敷をぬけて出口のほめき」

ほとお・る ほとほる【熱】

〘自ラ四〙
① 熱気を発する。熱くなる。また比喩的に、立腹する。ほとぼる。
※枕(10C終)一六二「さるべき事もなきを、ほとほりいで給ふ。やうこそはあらめ」
② 病気などで、身体が熱くなる。発熱する。ほとる。
※宝物集(1179頃)「頭ぬるみ身ほとをりてはらふくれむねさわぎて」

ほとぼ・る【熱】

〘自ラ五(四)〙
① 熱気を発する。熱くなる。ほとおる。
※改正増補和英語林集成(1886)「ヒバシワ マダ hotobotteiru(ホトボッテイル)
② 感情が高まる。かっとなる。

ほと・る【熱】

〘自ラ四〙 (「ほとおる(熱)」の変化した語) 熱くなる。熱気をもつ。病気で発熱したり興奮したりして身体が熱くなったりする意に用いる。ほてる。
※貞享版沙石集(1283)五「胸くるしくほとりて、堪へ忍びがたし」

ね‐・す【熱】

〘自サ変〙 (「ねっす」の促音「っ」の無表記) =ねっする(熱)
※栄花(1028‐92頃)もとのしづく「又ものさへねして悩み給へば」

ほとり【熱】

〘名〙 (動詞「ほとる(熱)」の連用形の名詞化) 熱くなること。熱気を帯びること。熱。熱さ。
※世間通言鳥づくし見立(1830‐44頃)「ねつの、ほとり」

ねち【熱】

〘名〙 熱病のこと。
※宇津保(970‐999頃)国譲中「くすしどもに問ひ侍れば、『ねちなどにやおはすらん』となん」

ねっ‐・す【熱】

〘自他サ変〙 ⇒ねっする(熱)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「熱」の意味・読み・例文・類語

ねつ【熱】

あついこと。肌に感じるあつさ。気候などの暑さ。また、高い気温。「を逃がす」「を加えて調理する」
病気などによる平常以上の体温。「三八度のが出る」
物事に打ち込むこと。ある事に精神を集中させること。熱意。「のこもった議論」「もっとを入れて勉強しろ」
ある対象に夢中になること。「旅行が高まる」「サッカー
物体の温度差の原因となるもの。高温の物体から低温の物体へ移動するエネルギーの流れ。分子原子の運動に関連するエネルギーの一形態。
熱病」の略。
[類語](1)(2温熱火熱かねつ炎熱焦熱熱気温気うんきいきほとほとぼり余熱地熱電熱気化熱融解熱放射熱灼熱赤熱白熱加熱過熱暖房保温予熱断熱発熱放熱高熱ヒート/(3熱意情熱熱情気魄きはく/(4熱中熱狂狂騒フィーバー

ねつ【熱】[漢字項目]

[音]ネツ(呉) [訓]あつい
学習漢字]4年
温度が高い。あつい。「熱気熱帯熱湯熱風
温度を高める力。あつさ。「熱源熱量火熱暑熱焦熱耐熱地熱電熱放熱余熱
体温のあつさ。「熱病解熱げねつ発熱微熱平熱
ある事に感情を高ぶらせる。「熱愛熱意熱演熱狂熱中熱望熱烈狂熱情熱
熱病。「産褥熱さんじょくねつ猩紅熱しょうこうねつ
[難読]稲熱病いもちびょう

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「熱」の意味・わかりやすい解説

熱【ねつ】

熱力学的には,温度の異なる2つの物体が接触すると必ず高温のほうから低温のほうへ移行するエネルギー。一物体に止まっている間は厳密には熱とはいわず内部エネルギーという。熱は長らく温度と混同されたが,ガリレイ以来の温度計の発達,特に18世紀J.ブラックによる比熱・潜熱の発見により熱量の概念が確立した。熱の本質については,一種の物質と考える熱素説がなお有力だったが,ランフォードやデービーの実験を経て,19世紀半ばにエネルギー保存の法則が確立され,熱はエネルギーの一形態とみなされるに至った。→熱力学の法則

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「熱」の意味・わかりやすい解説


ねつ
heat

物体に出入りしてその温度を変化させるエネルギー。たとえば,温度の異なる2物体を接触させ,高温物体が冷えて低温物体が暖まるときに,前者から後者へ移るエネルギーが熱である。昔は,熱は不変不滅な元素の1種と考えられ,熱素と呼ばれ,物体が含有する熱素の多少によりその温度の高低が定まるとされた。しかし 1800年頃から熱は力学的な仕事と同等であることが次第に明らかとなり,43年 J.P.ジュールが熱の仕事当量を測定し,47年には H.ヘルムホルツエネルギー保存則を提唱して,熱はエネルギーの1種とみなされるようになった。物体の温度は熱を加えても,摩擦をしても上がる。これは熱が物体の状態 (温度や体積で決る熱的状態) で定まる量でないこと,つまり熱素が考えられないことを意味する。熱はエネルギーが移動する過程で,エネルギーの一形態として考えられる量である。現在では,物体を構成する微粒子の無秩序な運動 (熱運動という) に伴う力学的エネルギーが熱であるという微視的解釈がとられている。熱の量は,他のエネルギーと同じ単位ジュールではかられるが,熱にだけ特有な単位としてカロリーもなお慣用されている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典 第2版 「熱」の意味・わかりやすい解説

ねつ【熱 heat】

温度の異なる物体があると必ず高温のほうから低温のほうへエネルギーが移る。このエネルギーが熱であり,したがって熱はエネルギーの一形態,正確にいうとエネルギーの移動における一形態である。
[熱とは何か]
 熱は人間の生活にきわめて深いかかわりがあるが,熱についての認識は力学などに比べるとはるかに遅れて進歩した。熱とは物体を暖める,あるいは熱くする何かであると考えられていたであろう。昔から太陽,火,摩擦運動,動物熱などがおもな熱源としてあげられている。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

化学辞典 第2版 「熱」の解説


ネツ
heat

はじめ,熱は熱素という一種の物質と考えられていたが,19世紀半ばごろ,熱力学第一法則が確立されて,熱は物質の状態変化に即して考えられる物理量とされた.物質がある定まった条件のもとで温度変化をするとき,物体は熱量を得る,または失うという.[別用語参照]熱量の単位

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「熱」の解説

 (1) 温度の違う二つの物体が接触するときに温度の高い方から低い方へ移るエネルギー.(2) 体幹温度が上昇する現象で,発熱サイトカインが働いて急性期反応物質が生成し,免疫系が活性化されるという特徴がある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典内のの言及

【発情】より

…〈さかり(heatまたはrut)〉ともいう。広義には動物が交尾可能な生理状態にあることをいうが,狭義には成熟した哺乳類の雌が,雄の接近を許し,交尾に応じることのできる生理状態にあることをいう。…

【エネルギー】より

…上式は保存力のときは,位置エネルギーまで含めた力学的エネルギーが物体の運動の際,状態が変わっても変化しないという(力学的)エネルギー保存の法則(エネルギー保存則)である(実質的にはJ.L.ラグランジュによって1811年に与えられた)。
[熱とエネルギー]
 力学的エネルギーの保存則は現実には満たされない場合が多い。現実の運動にはかならず摩擦や粘性抵抗などが関係し,保存力以外の力(非保存力)を考えねばならないからである。…

※「熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

少子化問題

少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...

少子化問題の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android