翻訳|fireplace
薪(まき)などを熱源とした直火(じかび)からの放射熱で採暖し、人体に害となる煙は煙突で排出する機構をもつ、建物と一体化した暖房用設備をいう。設置場所は壁に設ける場合が多いが、この形式をとくに壁付暖炉、または、イギリスで多用されたためイギリス暖炉ともよぶ。
[吉田治典]
暖炉は、部屋の中央に設けた炉床hearthで火を焚(た)き、煙は上部に設けた開口から排出するという、どの民族にも共通の原始的な暖房法を起源とし、建物が石造やれんが造という耐火構造に移行しだしたヨーロッパで、12世紀以後発展したものである。つまり、中央の火を耐火性の壁際に寄せることが可能となり、ついには、火床と煙突を一体化して壁に組み込む現在の暖炉へと発展した。火を壁際にもってきた理由には、部屋の個室化に伴う中央位置の不便さ、壁を利用した煙突の設置などがある。したがって、多人数が用いるホールでは、火を中央に置いた暖房法も継続して用いられた。
暖炉の発展に際し重要な点は、煙の完全な排出と、熱エネルギーの有効利用である。煙対策の点では、15世紀以降に種々のくふうがなされて十分完成したが、エネルギー効率の点では不十分で、高温の煙をそのまま放出してしまうため、効率は20~30%にとどまる。寒冷な気候のドイツ・北欧・ロシアでは、この暖炉の欠点をなくし、煙から熱を十分に回収するために、火を開放せず、煙を内部で循環させ、熱効率を60~80%にまで高めるくふうがなされた。ドイツのカッヘルオーフェン、ロシアのペチカがこれにあたる。これらは蓄熱の効果も有するため、燃料投入の回数が少なくても、暖房効果が持続する利点ももっている。一方、アメリカでは、18世紀に総鋼板製のペンシルベニア暖炉(のちにフランクリンストーブとよばれた)が発明され、以後、鋼板製の高効率ストーブとして発展した。また、わが国での暖炉の使用は、西洋建築が導入された明治以後になるが、西洋建築以外に導入されるほどには普及しなかった。
暖炉は、暖房という機能のほかに、わが国の床の間にあたる、部屋の装飾の中心としての役割をもち、暖炉の上部には絵画などの調度品が置かれ、暖炉の周囲には、マントルピースとよばれる、ロココ風、バロック風など、その時代に応じた装飾が施された。近代になって、その低効率性、ガス・電気への燃料転換、灰処理の煩雑さ、中央暖房の発達などにより暖炉は実質上の役割を失ったが、火を見て暖まりを感ずる心理的充足感、およびインテリア計画の一要素としての役割は消え去っておらず、現在でも趣味的に設置することもある。
[吉田治典]
暖炉は次のような主要部により構成される。(1)炉床 火を焚く床部分で、室内に40~50センチメートル突き出ている。(2)炉室 炉床と、それを取り巻く壁によりつくられる部分をいう。熱がこの壁から放射され、暖を与える。(3)ダンパー 煙道と炉床の間にある、可動な調整弁。(4)煙棚(けむりだな) ダンパーのすぐ後ろにある水平面で、ダンパーとともに、煙道からの冷気が室内に侵入するのを防ぐ。(5)煙室 焚き始めに一時煙を蓄える、煙道の最下部にあるフード状の空間。(6)煙道 焚き口面積の1/7~1/10の断面積をもつ、煙排出用の筒。(7)灰出口 灰処理用の口。下階にスペースがない場合は設けられないこともある。
[吉田治典]
『「住宅設備特集2 暖房」(『建築界』第3巻12月号所収・1954・理工図書)』▽『日本建築学会編『設計計画パンフレット10 住宅の暖房設計』(1960・彰国社)』
壁に造りつけられた採暖のための炉。ヨーロッパで一般化するのは近世以降のことである。中世の建物では,1階の広間には炉open hearthが設けられ,煙は屋根のルーバーから抜くのが一般であった。しかし当時でも,2階の部屋には壁体に煙道chimney flueを埋め込んだ壁つき暖炉が設けられていた。この時代には,煙を煙道に導くための覆いは木造であり,そこにプラスターあるいは土を塗って耐火性をもたせていた。この部分は後に煉瓦積みとなり,覆いの部分全体が壁体の中に隠され,室内側には炉口を囲って装飾的に暖炉を構成するマントルピースが設けられるようになる。炉室fireboxの上部はただちに煙道につながるのではなく,すぼみが設けられる。これによって上昇する煙は流速が増し,燃焼効果を高める。またこの部分にはダンパーdamperが設けられて燃焼調整をも行えるようになる。
採暖のための施設である暖炉は,寝室,居間,広間等には設けられる必要があるが,暖炉は部屋の奥まった壁面に位置するため,一種の上座となる。この点では,住居,住宅における火の位置が空間の中心となるという一般原則に合致するといえよう。しかし各室に設けられる暖炉はそれぞれ独自の煙道をもち,屋根には暖炉の数だけの煙突が並ぶことになるので,暖炉の位置を各室ばらばらに決めることはきわめて不経済となる。一般には隣り合った部屋は背中合せに暖炉をもち,上階・下階もほぼ同じ位置に暖炉を設けることになる。したがって暖炉の位置決定は18世紀から19世紀にかけての住宅設計においては,きわめて重要なことがらであった。現在ではそうした暖炉の実用性が薄れ,逆に象徴的に室内空間の中心を構成することを目的に設けられる場合が多い。なお,ロシアの〈ペチカ〉については同項を参照されたい。
→暖房
執筆者:鈴木 博之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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「マントルピース」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…中世まで,アルプス以南の諸国では床下からの暖房を行ったため,またアルプス以北では天井上の煙出しから排煙したので,ともに特別目立つ煙突を設けなかったからである。中世末以降,暖炉が整備される過程で煙突も生じてくる。とくにフランス・ルネサンス建築では高い屋根に煙突を林立させることが建築表現の特徴となった。…
…暖炉の炉の上部・側面を囲むかたちで壁面に設けられる飾枠。木,煉瓦,タイル,石,大理石等で造られ,室内の重要な装飾要素となる。…
※「暖炉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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