ゼーノの意識(読み)ゼーノのいしき(英語表記)La coscienza di Zeno

改訂新版 世界大百科事典 「ゼーノの意識」の意味・わかりやすい解説

ゼーノの意識 (ゼーノのいしき)
La coscienza di Zeno

イタリアの作家イータロ・ズベーボの小説。1923年刊。3年の歳月を費やして62歳のときに発表された。無為に陥ったブルジョアジーの主人公ゼーノ・コルシーニが,自己回復を求めて,精神医の助言に従い己の一生を綴り,幻滅撞着苦悩を分析するという物語で,E.モンターレ炯眼けいがん)と友人J.ジョイス尽力によって,孤立したこのトリエステの老作家の名を不動のものにした。手法としては,イロニー暗喩に満ちた,精神の内奥への分析を駆使して伝統的な構成・文体を壊した点で,主題としては,個人の神経症を扱いながら,両大戦間のヨーロッパという歴史的な危機の時代の病に重ねて現代人の生の不安を先取りした点で,20世紀文学の新たな針路を示した。〈種々さまざまなヨーロッパの思潮の十字路で育った,職業作家ではない一人の天才でなければ不可能な作品〉とE.チェッキが評している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゼーノの意識」の意味・わかりやすい解説

ゼーノの意識
ぜーののいしき
La coscienza di Zeno

イタリアの作家イータロ・ズベーボの小説。3年の歳月を費やして、1923年、62歳のときに自費出版で発表。無為に陥ったブルジョアジーの主人公、ゼーノ・コルシーニが、自己回復を求めて、精神科医の助言によって、己の一生を真率に認(したた)め、幻滅と撞着(どうちゃく)と苦悩を分析するという物語で、E・モンターレの炯眼(けいがん)とJ・ジョイスの尽力を介して、それまで孤立していたトリエステの老作家の名を不動のものにした。アイロニーと暗喩(あんゆ)に満ちた、意識の内奥への分析を駆使して伝統的な構成・文体を破った手法、個人の神経症を両大戦間のヨーロッパという歴史的な時代の病に重ねて現代人の生の条件を問うた主題で、20世紀文学の新たな針路を切り開いた作品である。

古賀弘人]

『清水三郎治訳『ゼーノの苦悶』(『世界の文学1 ジョイス ズヴェーヴォ』所収・1978・集英社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ゼーノの意識」の意味・わかりやすい解説

ゼーノの意識
ゼーノのいしき
La coscienza di Zeno

イタリアの小説家イタロ・ズベーボ長編小説。 1923年刊。精神分析を援用した最初の心理主義小説として知られる。親友ジョイスがフランスの批評家クレミュー,ラルボーらに紹介し,フランス,イギリスで認められた。主人公ゼーノが禁煙の決意をし,自己の心理を分析しつつ内奥に踏込んでゆき,結局は,自己と世界の絶望的状況を見出してゆく物語。

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世界大百科事典(旧版)内のゼーノの意識の言及

【ズベーボ】より

…99年,義父の経営する大きな塗料会社に入り,ブルジョア階級の一員となった彼の生活は大きく転換する。創作の失敗と実業家としての俗世の生活のため文学の道を中断したが,トリエステで英語の教師をしていたJ.ジョイスと知り合い,親しい交わりから深い影響と励ましをうけたこと,また商用でロンドンやウィーンなど各地に旅行し,フロイトの心理学をはじめ新しい思潮に接したことから,20余年の中断を経た1923年,《ゼーノの意識》を自費出版。詩人E.モンターレによる〈ズベーボ賛〉の論考と,ジョイスの尽力を介してフランス文学界からの高い評価とを得,ズベーボの名は,一つの〈事件〉として一挙にヨーロッパに広まった。…

※「ゼーノの意識」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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