オランダの物理学者。ゼーラント州ゾンネメアの生まれ。1885年ライデン大学に入学、超電導現象の発見者カマーリン・オネス(力学)やローレンツ(実験物理学)などに学ぶ。1890年ローレンツの助手となってカー効果を研究、1892年その結果をまとめて最初の論文を発表し、オランダ科学協会の金賞を受賞、1893年には同じテーマで学位を得た。ストラスブールのコールラウシュ研究所で流体中における電磁波の伝播(でんぱ)について一学期間研究したのち、1894年ライデン大学に戻り、1895~1897年同大学私講師、1897年アムステルダム大学講師、1900年同大学教授、さらに1908年ファン・デル・ワールスの後を継いで物理学研究所の指導者に、1923年には彼のために新設された研究所(後のゼーマン研究所)の指導者となった。
彼の最大の功績は、1896年にゼーマン効果を発見したことである。電磁石の磁極の間に置いたナトリウム炎からのD線を、ローランドの考案した凹面格子で調べ、D線が通常の場合より広がることを発見した。この現象がローレンツの電子論で説明できることを示したのに続き、電子論から予想されるとおり、広がった線の両側の部分が偏光していること、線は実は広がるのではなく2~3本に分岐していることを実証し、また電子の電荷は負で、そのe/m(電子の電荷の絶対値と質量の比)は電磁単位で107程度の値であるとして、電子の存在に実験的根拠を与えた。こうした磁場が放射現象に与える影響の研究により、1902年ローレンツとともにノーベル物理学賞を受賞した。
このほか、カナル線(陽極線)のドップラー効果に関する実験的研究、フレネル随伴係数におけるローレンツ項の存在を示したこと、質量分析器を用いて38Ar,64Niなどの同位元素を発見したことなどの業績がある。
[杉山滋郎]
チェコスロバキアの映画監督。ポスター・デザイナーなどを経て、PR映画の演出を手がけ、第二次世界大戦後、ゴットワルドフにできた国立人形映画スタジオに所属、『プロコウク氏』シリーズなどの短編人形アニメーションを演出。やがて『前世紀探検』(1954)からトリック撮影を巧妙に用いたSFファンタジー映画へと間口を広げ、『悪魔の発明』(1958)、『ほら男爵の冒険』(1959)などの佳作を発表した。1970年代から切紙アニメを手がけ、伝説を素材にした長編『クラバート』(1977)、『ホンジークとマジェンカ』(1980)などがある。1987年、第2回国際アニメーションフェスティバル広島大会に、国際名誉会長として来日した。
[森 卓也]
クリスマスの夢 Vánoční sen(1945)
ハムスター Krecek(1946)
幸運の蹄鉄 Podkova pro štěstí(1946)
プロコウク氏 映画製作の巻 Pan Prokouk filmuje(1947)
プロコウク氏 家作りの巻 Pan Prokouk v pokušení(1947)
プロコウク氏 靴屋はいやだの巻 Pan Prokouk ouraduje(1947)
プロコウク氏 発明の巻 Pan Prokouk vynálezcem(1949)
王様の耳はロバの耳 Král Lávra(1950)
鳥の島の財宝 Poklad Ptačího ostrova(1952)
前世紀探険 Cesta do pravěku(1954)
プロコウク氏 動物好きの巻 Pan Prokouk, přítel zvířátek(1955)
悪魔の発明 Vynález zkázy(1958)
ほら男爵の冒険 Baron Prášil(1959)
狂気のクロニクル Bláznova kronika(1964)
盗まれた飛行船 Ukradená vzducholoď(1966)
彗星に乗って Na kometě(1970)
シンドバッドの冒険 Dobrodružství námořníka Sindibáda(1972)
クラバート Čarodějův učeň(1977)
ホンジークとマジェンカ Pohádka o Honzíkovi a Mařence(1980)
カレル・ゼマンと子供たち Karel Zeman dětem(1981)
オランダの物理学者。ゼーラント州のゾンネメーレの生れ。デルフトで2年間の大学入学準備期間を過ごした後,1885年にライデン大学に進み,カメルリン・オンネスやH.A.ローレンツに学んだ。90年にローレンツの助手となり,カー効果の研究によって,92年にハーレムのオランダ科学協会から金メダルを授与され,また翌年には学位も得た。その後,シュトラスブルクのコールラウシュ研究所で半年間過ごし,戻ってからはライデン大学の私講師となった。96年から磁気光学の研究を開始し,電磁石の磁極間にナトリウム炎をおき,回折格子を使用してその発光を観測,その結果,スペクトル線の広がりを見いだした。翌年アムステルダム大学の講師になる一方,研究を継続し,スペクトル線の分岐を発見した。この発見は,放出される光の偏光状態に関するローレンツの電子論の諸帰結を確証しただけでなく,光を生ずる粒子,振動する粒子が負電荷をもつことをも示した。その後,この粒子の比電荷が,J.J.トムソンの陰極線粒子と同一であることを明らかにした。こうしたスペクトル線への磁場の影響はゼーマン効果と呼ばれ,1902年にはこれらの研究に対してノーベル物理学賞が贈られた。08年アムステルダム大学の正教授となり,その後35年間その座にあった。
執筆者:日野川 静枝
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…光源を磁場の中においたとき,原子のスペクトル線(発光線)が分裂する現象。1896年,P.ゼーマンがブンゼン炎中の食塩から発するナトリウムのD線が1T程度の磁場中で広がるのを観測したのが最初で,彼は,すぐ後に分解能を改良して発光線が実は数本に分裂していることを確認した。発光線の分裂は,初めH.A.ローレンツによって古典力学に基づいて説明されたが,完全な説明は量子力学によらねばならない。…
… 分光学の進歩とともに,吸収線による研究が進み,太陽大気中に存在する化学組成,温度,圧力,乱流運動などの知識が飛躍的に増えた。 96年オランダのP.ゼーマンは,光源を強い磁場の中におくと,その光源の発するスペクトル線は偏光状態の異なった成分に分かれ,1本の吸収線が波長の異なる線に分離すること(ゼーマン効果)を発見した。この分離が磁場の強さに比例するので,ゼーマン効果は天体の磁場を知る手段を与えた。…
※「ゼーマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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