そり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「そり」の意味・わかりやすい解説

そり
そり / 橇

地上を滑走させて人、物を運ぶ運搬具。人が足に履き滑ってゆくスキーのような滑走履き物類と、人または物をのせて滑らせる運搬具に大きく分けられる。そりの起源はきわめて古く、北欧で後期旧石器時代の遺跡からその断片が発掘されている。そりは車の発明以前にはもっとも重要な運搬具で、古代エジプトではそりのための道路もつくられた。車の発明と普及によって、多くの地域でそりは使われなくなったが、極地方や寒冷地の積雪地帯、沼沢(しょうたく)地帯などでは、車より有効なので、いまなお盛んに使用されている。

 そりを引くのは人または家畜である。人力で引くそりは、極北の狩猟民の間で冬期の狩猟活動に使われている。形は民族、地域によってさまざまであるが、一般に小型、軽量で、腰に紐(ひも)をつけて引くか、引き棒を持って引き、狩猟道具や獲物を運ぶ。そりを引く家畜には犬、トナカイ、馬、牛などがいる。犬ぞりは長い歴史をもち、分布域も大きかったが、現在も盛んに用いる民族は北アメリカのエスキモーおよびイヌイット、東シベリアチュクチコリヤークの一部、サハリン(樺太(からふと))、アムール地方のニブヒギリヤーク)など、漁労、海獣狩猟を主生業とする人々だけである。というのは犬の飼育には大量の餌(えさ)が必要なためで、ユーラシア大陸ではトナカイ飼育の普及によりトナカイぞりが主流となってしまった。犬ぞりの形も、地域、民族によってさまざまであるが、一般的に、滑り木は2本、滑り木に立てられた支柱に台がのる。つなぐ犬は数頭から十数頭で、大平原を疾駆するときには、扇状に、方向を重視するときには縦列につなぐ。トナカイぞりはトナカイを飼育するシベリアの諸民族とスカンジナビアサーミの主要な交通手段である。形は、東シベリアのチュクチ、コリヤークの肋骨(ろっこつ)状構造型、エベンキ、サハ(ヤクート)の直立支柱型、西シベリアのサモエード諸民族の傾斜支柱型、サーミのボート型の四つに大別できる。トナカイを1頭から2頭つないで引かせるのが普通であるが、サモエードでは7頭までつなぐことがある。馬や牛に引かせるそりはサハのほか、東部、北部ヨーロッパで冬期の積雪時に盛んに使われた(ロシアのトロイカなど)。先進地域では雪上車、スノーモビル類の普及で伝統的なそりは廃れたが(サーミのボート型のそりは現在まったく使われていない)、それでも、動力車の補助として、また観光客用に盛んに使われる地方も多い。

[佐々木史郎]

日本のそり

日本の滑走履き物類は、スキーの伝来以前において、スキーと同様な役割を果たすものであった。秋田県仙北(せんぼく)市角館(かくのだて)町の「やまぞり」、長野県下伊那(しもいな)郡神原村(現天竜村)の「いたぞり」などが好例としてあげられる。「やまぞり」は長さ40センチメートル、幅10センチメートル、厚さ2センチメートルほどの木沓(きぐつ)状で、先端を反り曲げてある。大人が硬雪の傾斜面を滑走するときに用いたが、杖(つえ)は併用しない。「いたぞり」は全長1メートルほどの、スキー状のものだが、一片に両足をのせて滑ってゆく。もっぱら子供が用いるが、これも杖は使わない。滑走運搬具は、氷雪上を滑走する「ゆきぞり」、泥土上を曳行(えいこう)する「どそり」、丸太を敷き並べた木馬道(きうまみち)を滑降する「きぞり」(木馬)の3種に分けられる。これらは滑走板が2本あるものが大半だが、1本しかないものもみられる。新潟県南西部の山間部で使用される「いっぽんぞり」がそれであり、積み荷受けを兼ねた腕木を滑走板の上に取り付けたもので、狭い雪の山道でも、自由に滑降できる。滑走運搬具は人力によるものだけでなく、畜力を利用するものも多く、日本では馬の使用が多い。

[胡桃沢勘司]

『礒貝勇著『日本の民具』(1985・岩崎美術社)』『宮本馨太郎著『民具入門』(1990・慶友社)』


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百科事典マイペディア 「そり」の意味・わかりやすい解説

そり(橇)【そり】

一般に雪や氷の上をすべらせ,人や荷を運ぶ道具。橇は,〈かんじき〉ともよむように,スキーや【かんじき】のような雪上滑走具・歩行具などとも密接な関係にある。また,古代の石材運搬具〈修羅〉などの発想につらなるものとしての,山地,湿地,泥土,ツンドラ(凍原)などの上をすべらす運搬具もそりの名で呼ばれる。人類最古の運搬具といわれるそりは,形態,用途,動力源などについて,その実用性の面からとらえられるが,人類が,これを遊具として活用してきた歴史も実用具と同様に古い。実用具時代のものとほとんど変わらないものもあるが,近代化された代表的なものとしてボブスレーリュージュトボガンスケルトン,探検・レース用犬ぞり(犬ぞりレース参照),スノーボード,スノーモービル,雪上車のトーイング(牽引)による大型ぞりなどをあげることができる。 分類の観点から,その形態は,滑り木を基準に〈欠如式〉〈1本式〉〈2本式〉の3つに大別できる。欠如式は,明確な滑り木を持たないもので,典型的な例は,長野県の〈いたぞり〉や土ぞりであるが,有明湾で用いられていた〈ハネイタ〉などに見られる。1枚の滑走板の先端に縄をつけて用いる。カナダで活用されてきたトボガンともよく似ている。1998年の長野オリンピックから正式種目となったスノーボードも,靴を固定する締め金具をつけているものの,狩猟,移動用とされていた当初の形態は,〈いたぞり〉にたいへんよく似たものであった。1本式は,スカンジナビア北部のサーミがトナカイに引かせる舟型ぞりに代表される。2本式は,滑り木が2本の本格的なものである。当初の姿は,自然木を利用した,二股に分かれたY字型そりなどに見られる。その他,動力源の違いから〈ヒトぞり〉〈牛ぞり〉〈馬ぞり〉〈トナカイぞり〉,用途によって〈乗用ぞり〉〈荷物ぞり〉〈狩猟ぞり〉などに分ける場合もある。→木馬(きんま)

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音楽用語ダス 「そり」の解説

ソリ[warp]

ギターやベースのネックが反ること。通常ネックというのは木で作られているため、弦の張力や湿気などの外的影響から引っ張られたり伸びたりして曲がってしまうことがある。ソリにはフィンガー・ボードがへこむように反る順ゾリとフィンガー・ボードが膨らむように反る逆ゾリがある。どちらに反っているかを判断するには一般的に2種類あり、ひとつはギターを水平に持ち、ヘッド側からブリッジ方向を片目をつぶって沿うようにフィンガー・ボードを見る。フィンガー・ボードがへこんで見えれば順ゾリ、膨らんで見えれば逆ゾリである。2つ目は、1弦の1フレットと12から14フレット付近のいずれかのフレットを同時に押さえ、ネック中央部の弦とフレットの隙間を見る。隙間が広ければ順ゾリ、弦とフレットが接しているようであれば逆ゾリになっている。

ソリ[soli(伊)]

小編成の合奏。ソロ(独奏)の対語として使われる場合と、サックス・ソリというふうにひとつのセクションの合奏を指す場合がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「そり」の意味・わかりやすい解説

そり
sled; sleigh

雪上あるいは氷上で,イヌやウマなどに引かせる乗り物。前身はトラボイやサイドカーと呼ばれる荷物用そりであり,人間が使った初めての乗り物と考えられている。そりの本体は,ランナーと呼ばれるまっすぐで細長い滑り材の上に取り付けられる。一般的にそりが用いられるのは,車輪のついた乗り物(→)では前に進みづらい,あるいは動きがとれなくなるような場所である。ラップランドや,アラスカ,カナダ,アジアのツンドラなどで使われる。

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普及版 字通 「そり」の読み・字形・画数・意味

理】そり

髪を整える。

字通「」の項目を見る


籬】そり

やれ垣。

字通「」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

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