アメリカの女流小説家、批評家。ハーバード大学その他に学んだあと、夢と現実の間の微妙な境地を探り、自己の実体を失いかけた人物を描く長編『恩人』(1963)でメリット賞を受賞、『死の装具』(1967)、短編集『わたしエトセトラ』(1978)などで新しい感性の作品を世に問い、批評活動では『反解釈』(1966)や『ラディカルな意志のスタイル』(1969)で文学作品の内容よりも形式を重んじる批評を提唱。ほかに『ハノイで考えたこと』(1969)、『写真論』(1977)、『隠喩(いんゆ)としての病い』(1978)、『土星の徴しの下で』(1980)、『火山に恋して』(1992)、『In America』(2000。全米図書賞受賞)や『この時代に想うテロへの眼差(まなざ)し』(2002)などがある。戦争や武力行使に対する批評でも注目を浴び、ベトナム戦争への反対活動等も行った。また、2001年9月に起こったアメリカ同時多発テロに対しては「自称“世界の超大国”への攻撃である」などと主張したほか、ナショナリズムに傾いていた当時のアメリカ政府やメディアの論調を批判、03年のイラク戦争には反対の姿勢をみせていた。小説、批評のほか、演劇にも携わり、1993年には戦時下のサライエボ(サラエボ)でベケットの戯曲『ゴドーを待ちながら』を上演、また映画の製作も数本手がけた(『案内者なき旅』(1983)など)。1994年モンブラン文化賞受賞。
[杉浦銀策]
『富山太佳夫訳『土星の徴しの下に』(1982・晶文社)』▽『川口喬一訳『ラディカルな意志のスタイル』(1986・晶文社)』▽『斎藤数衛訳『死の装具』(1990・早川書房)』▽『富山太佳夫訳『新版 隠喩としての病い・エイズとその隠喩』(1992・みすず書房)』▽『高橋康也他訳『反解釈』(1996・筑摩書房)』▽『富山太佳夫訳『火山に恋して』(2001・みすず書房)』▽『木幡和枝訳『この時代に想うテロへの眼差し』(2002・NTT出版)』▽『北條文緒訳『他者の苦痛へのまなざし』(2003・みすず書房)』
アメリカの批評家,小説家。ユダヤ系の両親のもとにニューヨークに生まれ,シカゴ大学卒業後,ハーバード,オックスフォード,パリの諸大学に学んだ。1950年に心理学者フィリップ・リーフと結婚,59年に離婚。60年代初めから《ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス》《コメンタリー》などの雑誌に書いた評論を集めた《反解釈》(1966)によって,批評家としての地位を確立した。表題となった評論は,〈内容〉や〈解釈〉を偏重する在来の批評に対して,〈形式〉を感受する〈官能美学〉,つまり理性あるいは西欧近代合理主義に対する感性の復権を唱えたマニフェストである。以後《ラディカルな意志のスタイル》(1969),《写真論》(1977),《隠喩としての病》(1978),《土星の徴しの下に》(1980)などの評論によって,芸術と思想の諸分野にわたる前衛的批評活動を展開。〈ニューヨーク知識人〉を代表する一人である。《死の装具》(1967),《わたしエトセトラ》(1979)などの小説のほか,《食人種のためのデュエット》(1969)などの映画作品もある。
執筆者:高橋 康也
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[インベーダーと放射能怪獣]
1950年代のSF映画の二大特色は〈インベーダー物〉と〈放射能怪獣物〉で,映画史家S.C.アーリーによれば〈怪奇映画が50年代になってSF映画になって現れた〉ことになり,〈狼男やミイラ男や歩く死骸(ゾンビ)が,宇宙からの侵略者や核爆発の放射能によって眠りからさめた太古の恐竜,あるいは巨大化した生物になった〉のである。〈インベーダー物〉についていえば,当時,前述の《地球の静止する日》のような平和の使者的宇宙人は例外で,以後,76年の《地球に落ちてきた男》,77年の《未知との遭遇》における〈友好的宇宙人〉の登場まで,SFのスクリーンは,スーザン・ソンタグのいう〈惨劇のイマジネーション〉〈破壊の美学〉一色に染め上げられることになる。その代表作が1953年の《宇宙戦争》で,パラマウントが握っていた映画化権がやっと実を結ぶ。…
…このような病気の観念の変換にあわせて,J.M.メイらの医学者やM.D.グルメクなどフランスの歴史家たちが,20世紀後半になって,あらたな〈病気の歴史学〉を提唱しはじめている。医学的認識の変化を広い歴史的文脈の中でとらえかえしたM.フーコーの《臨床医学の誕生》(1963),結核や癌といった病気をその〈神話〉から解き放つことをめざしたS.ソンタグの《隠喩としての病い》(1978)のような仕事も,以上のような動向と軌を一にするものといえる。 第3に,病気の発生はいちおう前提におくとしても,病気に対する社会的対応には,同様に歴史的な諸類型があることに気づかれる。…
※「ソンタグ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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