最新 心理学事典 「ソース・モニタリング」の解説
ソース・モニタリング
ソース・モニタリング
source monitoring
自己の体験や入手した情報をいつ,どこで,だれから,どのような状況で得たのか,体験や情報が事実なのか空想なのかなどについて正確に思い出せる(モニタリングできる)ことは,社会生活を円滑に行なううえできわめて重要な認知能力である。これら自己の記憶(思考・知識・信念なども含む)の起源を思い出す際の帰属判断を伴う一連の情報処理過程がソース・モニタリングである。一般に,ある出来事の経験や接した情報の内容などの中心的な情報の記憶はアイテム・メモリitem memory,その出来事や情報に付随する周辺情報(ある出来事の空間的・時間的情報,社会的文脈の情報,情報を入手した媒体やモダリティ,そのときの自身の感情など)の記憶をソース・メモリsource memoryという。
われわれの記憶は実際の出来事や接した情報を脳内にそのまま記録しているわけではなく,それらは記銘時に生じた意識的・無意識的なさまざまな認知活動の副産物として内的に表象されている。想起時には,想起の目的や状況に応じて思い出される記憶が再構成される。想起の際にも意識的・無意識的なさまざまな認知活動を伴い,思い出そうとする記憶情報とともに別の情報が付随して思い出されることがある(たとえば,想起する記憶に関連した(場合によっては関連のない)過去の経験,スキーマ,スクリプト,バイアス,期待,固定観念など)。したがって,特定の記憶情報を思い出す際には,標的とする記憶情報とそれに関連する情報とを区別できる,また,同時に思い出された関係のない情報を区別できるモニタリングのしくみが必要となる。
ソース・モニタリングは,ジョンソンJohnson,M.K.らの多重入力モジュール記憶システムの枠組みmultiple-entry modular memory system frameworkによれば,以下の内容をもつ。内的に表象される記憶情報には個々に目印がついているわけではないので,記憶の起源を判断する際は当該情報に関連する感覚・知覚情報,文脈情報,意味情報,情動情報,認知操作,これらの心的経験の内容や情報の多寡などを手がかりとして,(場合によっては,ヒューリスティックな)帰属判断を伴う推論を行なう。記憶情報の起源は大きく分けると2種類ある。一つは,考えたり,イメージされたりした,思考や想像の産物としての記憶である。これを内的に得られた記憶internal-memoryという。二つ目は,実際に遂行された行為,現実に起きた出来事,知覚された事物など,自分の体験の記憶である。これを外的に得られた記憶external-memoryという。外的に得られた記憶であるかを判断する場合,感覚・知覚情報や文脈情報が豊富である半面,認知操作についての情報が乏しいことが重要な手がかりになる。逆に,内的に得られた記憶の場合は,認知操作の情報が豊富である半面,感覚・知覚情報,文脈情報が乏しいことが重要な手がかりになる。ソース・モニタリングは,内的・外的に得られた記憶情報の起源の分類を踏まえ便宜的にいくつかの種類に分類されることがある。外部情報のソース・モニタリングexternal-external source monitoringは,外的に得られた記憶の起源の判断である。たとえば,ある会議での発言者がA氏かB氏かを思い出して判断する場合はこれに当たる。リアリティ・モニタリングreality monitoringは,internal-external monitoringとよばれることもあり,記憶された情報の起源が内的か外的かを判断する。友人への借金の返済が夢か現実かの判断はこれに当たる。ただし,内的・外的という分類以外に,自己・他者という分類を用いる場合もある。
【実験パラダイム】 一般的なソース・モニタリングの実験では,ソース・モニタリング課題は再認課題の後に課されることが多い。たとえば,男声と女声でランダムに読み上げられた単語リストを学習する場合,記憶テストでは,まず単語を見たかどうかの再認テストがあり,「学習した」と判断した単語についてのみ「男声と女声のどちらだったか」というソース・モニタリング判断が課される。このほか,再認と組み合わせた判断(単語を示して男声,女声,あるいは,未学習かを問う)や,再生と組み合わせた判断(単語を思い出してもらい,男声と女声のどちらだったかを問う)もある。いずれにしろ,ソース・モニタリングは,従来の再生・再認課題よりも一歩踏み込んだより詳細な記憶を求めるため,記憶の能力の差がより顕著に出やすいというメリットがある。ソース・モニタリングの難易度は実験条件によってさまざまに変化する。たとえば,弁別するソースが類似している場合(男声と女声ではなく,女声Aと女声B)は,そうでない場合よりも難しい。同様に,刺激による情動喚起の水準の違いや,想像力の高い人とそうでない人などの個人差によっても,難易度が変化する。近年の特徴としては,ソース・モニタリング課題と脳機能画像処理技術を組み合わせた神経心理学的研究で急増し,今後もこの方面からの知見が蓄積されることが予想される。
【ソース・モニタリング能力の発達的特徴】 ソース・モニタリングには複雑な認知プロセスが関与しており,その能力が存分に発揮できるようになるためにはある程度の長い期間が必要と考えられる。実験刺激,教示,実験が行なわれる文脈など多くの要因に影響されるが,個人差はあるとしても総体的には子どもから青年・成人期にかけてソース・モニタリング能力はピークを迎え,加齢とともにしだいに衰えるいわゆる逆U字型の発達過程を経ると考えられる。子どもに関するソース・モニタリングの研究では,エピソード記憶・自伝的記憶・意味記憶など記憶能力の発達過程のみならず,推論や帰属判断の発達,子どもの社会化の過程の解明,とくに自己意識の芽生え,他者と自己の分離,心の理論の発達の過程の解明などに貢献できる可能性が示唆されている。
他方,高齢者のソース・モニタリングの研究は,子どもの研究に比べより多くの蓄積がある。加齢による認知機能の変化で比較的早期に出現するのが,記憶能力の低下である。記憶の中でもソース・メモリはアイテム・メモリよりも加齢による影響を早い段階で受けやすいと考えられることから,高齢者のソース・モニタリングの研究が多数報告され,低下の原因についての研究が進んでいる。一方で,高齢者の生活の質の向上という観点からの介入的な研究も最近では散見される。高齢者のソース・モニタリング能力が教示や訓練によって向上するということは,高齢期のソース・モニタリング能力の低下は不可逆的なものではなく,ある程度の水準までは意識的に向上させることができるということになる。
ソース・モニタリング能力の生涯発達の観点からの横断的・縦断的な総合的な研究はほとんどない。ソース・モニタリング研究による,記憶を中心とした認知能力全般の発達過程解明の可能性や目撃証言研究の社会的重要性も考慮すると,ソース・モニタリング能力が生涯においてどのように変化するのかについて広い視野に立った研究が望まれる。 →記憶
〔金城 光〕
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