別名フクロアナグマ。有袋目フクロネコ科の哺乳類。体つきがクマに似て,がっしりとしたタスマニア島固有の動物。体色は黒褐色ないし黒色で,前胸部にクマのそれに似た三日月状の白斑がある。クマよりはるかに小さく,体長52~80cm,尾長23~30cm,体重4.1~11.8kg。森林,草原,山地,海岸とタスマニアのほとんどあらゆる環境にすむ。夜行性で,日中は岩穴,木の洞,ウォンバットの巣穴,茂みなどで眠り,夜間おもに嗅覚(きゆうかく)でカエル,ザリガニ,鳥,ネズミなどをさぐりだして捕食する。ワラビーやアナウサギなどの哺乳類も食べるが,動作に敏しょうさを欠くため,生きた獲物を捕獲するのは困難で屍肉(しにく)をあさる。かつて,フクロオオカミが生存していた時代には,その後ろにつき,彼らが食べ残した獲物をちょうどハイエナのようにがんじょうな歯を使って食べた腐肉食者であったと推測される。交尾期は3月。雌は妊娠期間31日で2~4子を生む。他の有袋類同様,誕生時の子はきわめて小さく,体重0.18~0.29g。育児囊で約105日間育てられる。飼育下での寿命は8年。
1800年代にはタスマニア各地にふつうに生息していたが,1900年代に入るとおそらくフクロオオカミの絶滅も一因となって,激減し絶滅の心配もでた。しかし,近年回復傾向が認められ,多くの地域でふつうに見られるようになった。これは牧場から出る屍肉の増加によるらしい。オーストラリアには,現在生息していないが,原住民の貝塚から骨が発見されており,それほど古くない時代に絶滅したらしい。
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱有袋目フクロネコ科の動物。フクログマ、フクロアナグマともいう。タスマニア島だけに分布する。頭胴長47~83センチメートル、尾長22~30センチメートル、体重5.5~9キログラム。体は頑丈で頭は大きく、あごの筋肉は強力で歯も強い。吻(ふん)は短く幅広い。体の上毛は粗く、下毛は羊毛状である。体色は黒または暗い黒茶色で、のどに月輪状の白斑(はくはん)があるが、欠くものもある。後ろ足の第1指はない。雌の育児嚢(のう)は繁殖期だけに発達し、後方に開口する。乳頭は4個。夜行性で、川岸、海岸、谷間などの岩石地、あるいは森林、低木林などに単独で生活する。昼間は岩穴や木の株のうろ、石の下などに隠れている。種々の動物を捕食し、カエル、ザリガニ、魚などから、ヒツジ、ニワトリまで食べる。1産1~4子。子の大きさは12ミリメートルで、目は閉じ、体には毛が生えていない。子は育児嚢で育てられる。寿命は7年ほどである。
[中里竜二]
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