改訂新版 世界大百科事典 「船体構造」の意味・わかりやすい解説
船体構造 (せんたいこうぞう)
hull structure
船の種類は非常に多く,船体の構造も種類や用途によって異なってくるが,ここでは,大量の貨物を積載して外洋を航行する大型貨物船を対象に解説する。現代社会の広範な経済活動や流通システムの変革による多様な需要のもとで,貨物船の種類も一般貨物船をはじめ重量物運搬船,ばら積船,鉱石運搬船,オイルタンカー,コンテナー船など,きわめて多岐にわたっている。このように多様な大型船の建造が可能となったのは,船体構造の設計・建造における技術的進歩に負うところが大きい。これには,(1)船体に作用する波浪荷重の推定精度が改善されたこと,(2)電子計算機を利用した新しい構造解析理論が開発され,複雑な骨組構造,板構造,殻構造の変形や応力の解析が可能となり,荷重推定精度の上昇とあいまって構造の安全性評価の信頼性が高まったこと,(3)信頼性の高い溶接構造物が製作されるようになるとともに,大型ブロック建造による建造の合理化が進んだことなどがあげられる。
貨物を積載し,ときには荒天を航行する船は,波などから受ける外力によって損傷などの事故が生ずることのないように,構造安全性に関して必要十分な船体強度を保持しなければならない。この船体強度は,便宜的に縦強度,横強度,局部強度に分けられる。縦強度は,船体を長さ方向に断面が変化する1本の梁とみなしたときの船体全体としての強度,横強度は,船倉部分を板構造,あるいは骨組構造と考える部分構造(さらに単純化する場合には,船体をその長さ方向の一構造単位分だけ輪切りにして得られる構造)の強度,局部強度は,船倉内部,船首尾部,機関室部分などの板や骨に関する強度である。船体には,必要とされるこれらの強度を十分にもつとともに,その船の用途に適した構造が採用される。
→船体強度
構造形式
貨物船の船倉は,その船種に応じてそれぞれの貨物の積載と荷役に適した固有の構造様式となっているが,船体構造という観点から機能別に分解すると甲板構造,船底構造,船側構造,隔壁構造という共通の構造部分に大別することができる。甲板は船体の深さ方向に対して水平に設けられる板状の構造物である。貨物の積載や乗員の居住,機関の設置などに必要な床と区画を提供するとともに,船体に水密性,強度・剛性を与えており,とくに上甲板は縦強度を受けもつ主要部材となっている。船底構造は水圧や貨物の重さによる曲げに耐えるとともに,縦強度,横強度を受けもつ。船底がタンクとなっている二重底と,なっていない単底がある。船側構造は甲板構造および船底構造と接続し,両者とともに縦強度を受けもち,また甲板からの荷重も支持する。隔壁は上甲板下の船体を横方向,あるいは縦方向に区画している壁状の構造物で,船体に対して横方向に設けられるものを横隔壁,長さ方向に設けられるものを縦隔壁という。隔壁には目的に応じていろいろのものがあるが,もっとも重要なものは水密区画を形成する水密隔壁である。
これらの構造部分をさらに構造要素に分解すると,板,板を補強する肋骨(フレーム),あるいは梁(ビーム)および肋骨あるいは梁を支持する桁(ガーダー)とに分けられる。ここで,肋骨あるいは梁が船の長さ方向に配置される場合を縦肋骨方式,幅方向あるいは深さ方向に配置される場合を横肋骨方式と呼ぶ。桁は肋骨,あるいは梁に直交して設けられるので,縦肋骨方式においては幅方向,あるいは深さ方向に,また横肋骨方式においては長さ方向に配置されることになる。甲板構造,船底構造,船側構造がともに縦肋骨方式である場合を縦式構造,これらが横肋骨方式の場合を横式構造といい,両者が混用される場合を混用式構造と称する。横式構造は横強度が重要となる場合に有利な構造法であり,船倉内への構造部材の突出しが少なく貨物の積付けにも便利であるなどの利点から小型船に多く採用されている。縦式構造は縦通する肋骨や梁が縦強度部材として働くことから縦強度が重要となる場合に有利な構造法であり,混用式構造は両者の利点を活用するものである。大型船では船の長さが長く,縦強度が重要となるので縦式構造,あるいは混用式構造が採用されている。
船体構造の具体例
船体構造の具体的な例として,建造実績が多く,他の船種の船倉とも共通点の多いばら積船の船倉構造をとり上げる。ばら積船は,船の長さ方向に横隔壁で仕切られた数倉,多い場合には10倉以上の船倉を有し,小麦,石炭,鉄鉱石などをそのまま船倉に積載する。小麦や石炭のように比重の小さい貨物は全倉に満載し,鉄鉱石のように比重の大きいものは1倉おきに積載する。
船倉断画において(図),両玄の上隅の三角形部分をトップサイドタンク,下隅の三角形部分をビルジホッパータンクと呼ぶ。トップサイドタンクは,タンク内部をバラストタンクとして用いるとともに,3辺が甲板構造,船側構造,船倉の一部を形成している。甲板部分,船側部分,斜板は,いずれも,それぞれ縦通梁,船側縦通肋骨,縦通防撓(ぼうとう)材による縦肋骨方式である。ビルジホッパータンクもタンク内部をバラストタンクとして用いるとともに,3辺が船側構造,船底構造,船倉の一部を形成し,残りの辺が側桁板を形成する。さらにビルジホッパータンク全体として閉断面梁を形成し,その曲げせん断剛性,ねじり剛性が二重底を支持する働きをする。船側部分,船底部分,斜板は,いずれも,それぞれ船側縦通肋骨,船底縦通肋骨,縦通防撓材による縦肋骨方式である。
船側外板の補強材として働くのが倉内肋骨であり,その上下端はトップサイドタンク,ビルジホッパータンクと結合されている。この部分の船側構造は横肋骨方式である。この方式が採用される理由は,縦通肋骨とした場合にばら積貨物がその上面に残ることを避けるためである。このような意味でばら積船の船倉は混用式構造の例であるが,倉内肋骨の上下端の結合部は,横肋骨方式から縦肋骨方式へ構造法が変化する個所となる。このような個所では,一般に力の流れに無理が生じやすいので局部強度の観点から十分な検討が行われる。
船底は船底構造としての強度を保持し,座礁時の浸水を防止する必要から二重底となっている。二重底は船倉底面が平らになり,荷役面からもつごうがよい。船体中心線上には中心線桁板が,また両玄方向へビルジホッパータンクとの間に各数条の側桁板が配置され,そしてそれらに直交して,倉内肋骨の中心間距離の3~4倍の距離ごとに,倉内肋骨位置に合わせて肋板が設けられて格子構造を形成する。この格子構造の船底側の板が船底外板,船倉側の板が内底板であり,それぞれ船底縦通肋骨,内底縦通肋骨による縦肋骨方式である。
ビルジホッパータンク内の縦通肋骨を支持するための横桁であるトランスリングは,通常,肋板の位置ごとに設けられ,トップサイドタンク内ではこの2倍の間隔で設けられる。横隔壁には,波板,あるいは二重張り構造が用いられ,甲板構造とトップサイドタンクとの結合部に上部スツール,二重底構造とビルジホッパータンクとの結合部には下部スツールと呼ばれる台形断面の筒状構造が設けられる。これらのスツールは,その深さによって隔壁の長さを減少させ隔壁構造重量の軽減を図るとともに,隔壁の両端における固着度を増し,甲板構造,あるいは二重底構造との結合における不連続性を緩和する。両スツールとも内部をトランスリング,あるいは膜板で補強する。
ばら積船の船倉は上述のように船側構造の一部を除いて縦肋骨方式であるが,他の船種の場合と同じく縦強度よりも横強度が重要となる機関室二重底部,船尾バラストタンク部には横肋骨方式が採用される。
執筆者:吉田 宏一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報