日本大百科全書(ニッポニカ) 「チェン」の意味・わかりやすい解説
チェン
ちぇん
Roger Y. Tsien
(1952―2016)
アメリカの化学者。ニューヨーク生まれの中国系アメリカ人。1977年、ケンブリッジ大学で博士号を取得。1989年からカリフォルニア大学サン・ディエゴ校教授。2008年、「緑色蛍光タンパク質(GFP=Green Fluorescent Protein)の発見と開発」によってチャルフィー、下村脩(おさむ)とともにノーベル化学賞を受賞した。
1962年、下村がオワンクラゲの体内から紫外線が当たると緑色に光るタンパク質(GFP)を発見した。それから30年後、分子生物学の進歩によって、GFPが238個のアミノ酸で構成されていることやその配列がわかり、この物質の実用研究が発展した。
チェンは、GFPの遺伝子のアミノ酸配列を変えて、それまで緑色にしか発光しなかったGFPをさまざまな色が出るように改良した。そして蛍光タンパク質を組み合わせることによって、種々のタンパク質や細胞を色の違いで識別できるようにした。この手法の開発によって、生体内のいくつかの異なった代謝過程などを同時に追跡できるようになった。たとえばマウスの脳の異なった神経細胞にさまざまな色のタグをつけることに成功し、脳内の神経細胞のふるまいを観察できるようになった。また、チャルフィーはGFPを大腸菌に組み込んで可視化し、さらに線虫の6個の個別の細胞をGFPを使って識別することに成功した。
チェンとチャルフィーの研究成果によって、医学の基礎研究や分子生物学の世界で生体内のタンパク質やさまざまな物質のふるまいが可視化され、GFPの利用は研究手法として爆発的に広がった。高校の生物、化学などの実験でGFPを使った遺伝子の組換え実験もできるようになった。
[馬場錬成]