日本大百科全書(ニッポニカ) 「チカノバー」の意味・わかりやすい解説
チカノバー
ちかのばー
Aaron Ciechanover
(1947― )
イスラエルの生化学者。1974年ヘブライ大学のハダッサ医科大学院卒業後、1981年にイスラエル工科大学で博士号を取得。マサチューセッツ工科大学(MIT)研究員などを経てイスラエル工科大学教授。
生体は水とタンパク質からできているといわれるほど、多種類のタンパク質が存在している。そのためタンパク質の生成メカニズムが判明するにしたがって、研究者の関心はタンパク質の生成過程に集まっていた。タンパク質の生成にも分解にもアデノシン三リン酸(ATP)という代謝エネルギーが必要であることがわかり、チカノバーは1970年代からタンパク質の分解過程に興味をもって追跡を始め、同じイスラエルの生化学者ハーシュコと、サバティカル休暇(研究などのための長期休暇)でアメリカのフィラデルフィアにあるフォックス・チェイス癌(がん)センターのI・ローズを訪問し共同研究を進め、1978年にATPを必要とするタンパク質分解が存在することを確認した。そして、ユビキチンという76個のアミノ酸残基からできている小さなタンパク質は、不要になったタンパク質に標識され、高分子タンパク質の分解酵素であるプロテアソームに運ばれ、そこで分解されることを発見した。さらにユビキチンのふるまいを追跡し、ユビキチンはタンパク質が分解される途中にあり、完全に分解される直前になると遊離して再利用されるという精妙な仕組みを解明した。
2004年、この「ユビキチンを介したタンパク質分解の発見」の業績でハーシュコ、ローズとともにノーベル化学賞を受賞した。
[馬場錬成]