フランスの批評家、文学史家。ブルゴーニュ地方の出身。アンリ4世高校でベルクソンの生徒であった。パリ大学を終えてから各地の高校、大学で教鞭(きょうべん)をとり、1911年から『NRF(エヌエルエフ)』誌の有力寄稿者となり、24年から批評家の栄光のしるしであるジュネーブ大学教授のポストについた。早くからべルクソン哲学の影響を受け、象徴派の詩人として文壇にデビューしたが、その精神傾向を保持しつつ、批評に転向した。『マラルメの詩』La Poésie de Stéphane Mallarmé(1913)は『ポール・バレリー』(1924)、『ベルクソン派哲学』(1924)などとともにそのもっとも輝かしい成果であり、チボーデの詩人と批評家の共存を示す。やがて彼の批評は、豊かな感性と明晰(めいせき)な精神、さらにはまれにみる博識に支えられて、小説、批評、文学への反省として花開き実る。『フロベール その生活 小説 文体』(1922)、『NRF』への寄稿文を編集整理した『小説の反省』(1938)、『批評の反省』(1939)などにみられるとおりである。本来対象である作品を、開かれたもの、一つの出発点とみなすことにあったチボーデの批評は、『アミエルあるいは夢の部分』(1929)あたりから、自在の境地に達する。チボーデを通して、ある作品が別の作品と自由に対話し始めるのである。創見に満ちた『フランス文学史』Histoire de la littérature française de 1789 à nos jours(1936)、『モンテーニュ』(1936)もその例外ではない。
[松崎芳隆]
『辰野隆他訳『フランス文学史』全三冊(角川文庫)』▽『生島遼一訳『小説の美学』(1940・白水社)』
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