原生動物(原生生物)の肉質虫類、有孔虫目Foraminiferidaに属する微小な生物。多くは鉱物質の殻をもつ。殻には、砂粒や小さな生物の殻の破片などを集めて膠着(こうちゃく)したものと、自ら分泌したものとがある。1ミリメートル以下のものがほとんどであるが、まれに10センチメートル以上に達する種類もある。殻は1個あるいはそれ以上の室で成り立っている。各室は、線状、平面旋回状、螺旋(らせん)状などさまざまな配列をする。殻の開口部より、仮足とよばれる糸状の原形質を放射状に伸ばす。仮足は分枝・合流を繰り返し、網状となって殻全体を覆う。これは、珪藻(けいそう)、珪質鞭毛(べんもう)藻、バクテリアなどの捕食、それらの消化、新室の形成、付着、移動などにさまざまな役割を果たす。一方、有孔虫は、小さな腹足(ふくそく)類、斧足(おのあし)類、翼足(よくそく)類、甲殻類などに捕食される。共生藻類をもつ種類も知られている。無性的な分裂と有性生殖を交互に繰り返して増える。多くの種類は海産で底生である。汽水性のものや浮遊性のものは少ない。生産量が高く、陸からの砂や泥の供給の少ない海域では、浮遊性有孔虫が多量に堆積(たいせき)し、有孔虫軟泥(グロビゲリナ軟泥)が形成される。また、八重山(やえやま)列島や竹富島など、暖海の島の砂浜をつくる星砂も有孔虫である。
[谷村好洋]
有孔虫の産出記録は、古生代カンブリア紀までさかのぼることができる。初期の有孔虫は単室で、鉱物質や殻壁が鉱物粒子や生物の遺骸(いがい)からなる膠着質の殻をもち、生息域はほぼ浅海に限られていた。古生代の中ごろ、有孔虫は大きな分化を遂げる。それは、多室形のものの出現と、等大の角張った方解石からなる微粒質殻をもつ有孔虫の分化である。石炭紀には、微粒質殻の有孔虫から、サイズが大きくなり、構造も特殊化したフズリナ類(紡錘虫類)が分化・発展する。そして石炭紀末には、一見、不透明にみえる磁器質殻の有孔虫も現れる。これに続くペルム紀(二畳紀)はフズリナ類の急速かつ多様な分化で特徴づけられる。これはペルム紀末の急激な絶滅とともに、有孔虫の進化史上もっとも大きなできごとといえる。また、ペルム紀には、中生代から新生代へと繁栄する、多孔質なガラス状石灰質の殻をもつ有孔虫が出現する。中生代ジュラ紀に入り、それまですべて底生であった有孔虫のなかに、浮遊生活に適応していたと考えられるものが現れる。また、ほぼ同じころ、深海生活をする底生有孔虫も出現する。それらは、白亜紀以降新生代へと、生息域を飛躍的に広げていくことになる。新生代古第三紀は、貨幣石(ヌムリテス)に代表されるような大形有孔虫の多彩な分化の時代といえる。第四紀の終わりころになって、細長い方解石の結晶からなる針状体質殻をもつ有孔虫が出現する。
このような有孔虫の進化史は、有孔虫化石が標準化石として用いられるときの理論的基礎となっている。後期古生代のフズリナ類、古第三紀の大形有孔虫類などは、古くから地層の対比や時代決定に用いられてきた。これらとともに標準化石として重要な役割を果たしてきたものに、白亜紀中期以降の浮遊性有孔虫類がある。なかでも、プレートテクトニクスということばで代表されるような新しい動的な地球観をつくることを目的に進められてきた国際深海掘削計画(DSDP、ODP)のなかで、標準化石としての浮遊性有孔虫化石が果たした役割は計り知れない。また一方で、有孔虫は示相化石としても重用されている。有孔虫は、水温、塩分、深度、底質の性質、水素イオン濃度、溶存酸素量、海底地形などに影響・規制されて生息している。現在の海洋での、これら環境条件と有孔虫の種組成や形態との関係を地質時代の有孔虫化石群集に適用して、地層の堆積環境や過去の海流像や気候などを明らかにする研究が盛んに行われている。さらに、有孔虫は古くから、石油の探査に欠くことのできない手掛りとして用いられてきた。
[谷村好洋]
『半沢正四郎著『大形有孔虫』(1973・朝倉書店)』▽『日本化石集編集委員会編『日本化石集21 新生代の浮遊性有孔虫化石』(1978・築地書館)』▽『日本化石集編集委員会編『日本化石集22 白亜紀・第三紀の大形有孔虫化石』(1974・築地書館)』▽『日本古生物学会編『化石の科学』(1987・朝倉書店)』▽『福田芳生著『化石探検PART1 ストロマトライトから穿孔貝まで』(1989・同文書院)』▽『速水格・森啓編『古生物の科学1 古生物の総説・分類』(1998・朝倉書店)』
肉質虫類に属する原生動物の1目Foraminiferaで,海洋に広く生息しているが,少数ながら淡水生のものもある。大多数は底生生活者であって,ごく一部の種類が浮遊性生活を営む。化石はカンブリア紀以来の海成層に産出し,示準化石や示相化石として重要な役割を果たしている。古生代より現生のものまですべてを含めると,約1400属,3万4000種以上に達するが,そのうち約4000種は現生種である。日本では,クダドロムシRhizammina indivisa,ジュズドロムシReophax scorpiurus,タマハナドロムシTrochammina globigeriniformis,ウズシラガイCornuspira involvens,タマウキガイGlobigerina bulloides,キスイコマハリガイAmmonia beccariiなどがふつうに見られる。現生種のうち,Globigerina pachyderma,G.quinquelobaなどは冷水塊にすみ,Globigerinoides ruber,ナガアナウキガイG.sacculiferus,Globorotalia hirsuta,スズウキガイG.menardiiなどは黒潮水域でふつうに見られる。
有孔虫の体は原形質とそれを保護する殻で構成される。原形質はやや暗色の内質と明色の外質の2層よりなる。内質は単数ないし複数の核をもって殻内にあり,外質とそれより出る糸状の仮足が外界と接触する。仮足は摂食,消化,排出,殻壁の構築,包囊(ほうのう)の形成,殻の付着,移動などの多くの機能をもつ。大部分の有孔虫の生活環には世代交代があり,同種双型ないし二形性といわれる現象が見られる。有性で単核の大球形世代は半数体で,アメーバ状ないし鞭毛状の配偶子を生産し,それらが合体して無性世代をつくる。無性世代は多核の小球形で倍数体であり,減数分裂によって次の有性世代をつくる。通常,大球形(または顕球形)の個体は初室が大きくて殻は小さいのに対して,小球形(または微球形)の個体は初室が小さく殻は大きい。殻の大きさはまれに10cm以上に達する種類があるが,ほとんどは1mm以下である。殻の形態,内部構造,殻壁の構造などは著しく変化に富む。殻の大きさや内部構造の複雑さなどに注目して,有孔虫を大型有孔虫と小型有孔虫に分けることがあるが,これは系統分類上の区別ではない。
有孔虫の殻壁は構成物とその外見によって,類キチン質殻,膠着質殻(または砂質殻),磁器質殻,微粒質殻,ガラス状石灰質殻,針状体質殻の6種類に分けられる。殻壁には一般に細かい壁孔が発達し,また殻壁断面では層状構造の見られるものもある。殻は一つないしそれ以上の室で構成される。室の形と配列様式は種に固有であるが,それらは成長の諸段階を通じて必ずしも一定ではない。石灰質の殻の表面には,しばしばいろいろな装飾が発達する。有孔虫の殻の内外の細胞質の連絡口である口孔の,形状,数,位置さらにそれらの個体発生における変化は分類上重視される。有孔虫の系統分類は,以上のような殻の構成,微細構造,全般的な形態上の諸特徴などにもとづいて行われる。カンブリア紀に類キチン質殻と膠着質殻有孔虫が出現し,続いてオルドビス紀になって微粒質殻のものが出現した。微粒質殻有孔虫は後期古生代において著しい進化をとげ,古生代末にその代表的グループであるフズリナ類を含めて大部分が絶滅した。これと同時代に当たる石炭紀には磁器質殻,次の二畳紀にはガラス状石灰質殻の有孔虫がそれぞれ出現した。とくに後者は中生代に入って急速に繁栄し始めたが,これに属する浮遊性有孔虫は白亜紀以降世界の海洋に広く分化発展した。針状体質殻のものは現世になってようやく出現している。生層位学では産出化石によって地層を細分(分帯)し,それらの順序を定めているが,これら細分された地層単位(化石帯)が地質年代と関連づけられると,遠隔地に分散した地層間の対比や年代決定が可能になる。有孔虫化石が生層位学的にとくに有効なのは著しく進化発展した時代の地層で,後期古生代のフズリナ化石帯,中・後期白亜紀および新生代の浮遊性有孔虫化石帯,示準化石ヌンムライトなどを含む第三紀の大型有孔虫化石帯などは国際対比に広く用いられている。
底生有孔虫の多くは,海底堆積物の表面や表層数cm内のところで自由生活を営み,その他は海藻,貝殻,岩石などに付着して生活している。生活深度は潮間帯より深海底にまで及び,また緯度上では極海から熱帯海まで広く分布し,それぞれの環境に適応して種群に分化している。なかでも熱帯浅海域において群集は多彩化する。浮遊性有孔虫の場合は,個々の種の深度分布範囲がかなり広いが,全体としては50m以浅にもっとも集中している。全海洋を通じて,暖・寒両水系の種群が赤道にほぼ平行な帯状に分かれて分布する。大洋底の約47%を占めるグロビゲリナ軟泥はこれら浮遊性有孔虫の遺骸で形成されている。一般に有孔虫の分布を規制する環境要因として,深度,水温,密度,光量,塩分,水素イオン濃度,酸素,栄養塩類,地形,距岸距離,底質,底生生物などが重視される。元来,有孔虫の殻は微小で少量の堆積物中にも多数含まれているので,定量的解析が行える。その利点に立って,現生有孔虫の生態,分布に関する知識をもとにした化石群集の古生態学的解釈がなされてきている。近年は,これに有孔虫の石灰質殻の酸素同位体比測定も加わり,古気候,古海洋など古環境解析が活発に行われている。有孔虫化石は,以上のように地球史探究に貢献することが多いが,応用面でも石油資源などの開発のための地質構造の解明に早くから重用されてきている。
執筆者:高柳 洋吉+今島 実
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