北は八戸市東部の鮫崎(さめざき)から岩手県の陸中海岸を経て,牡鹿半島南端の金華山に至る長大な海岸。陸奥,陸中,陸前の3ヵ国にまたがることから三陸海岸と呼ばれ,大部分は岩手県に属する。地形的には宮古湾以北が隆起海岸で最高200mをこえる海岸段丘が発達し,豪壮な断崖と岩礁風景が連続する。これと対照的に宮古以南は沈降海岸を示すリアス式海岸で,数多くの湾と岬が交互に連続し,沖合漁業の根拠地となっている。地質的には北上山地と類似する砂岩,粘板岩などの古生層に花コウ岩,石英粗面岩などが貫入している。宮古以北の段丘崖には化石を含む白亜紀層がみられる。深い湾奥部に注ぐ中小河川のつくった狭小な三角州や沖積地には,久慈,宮古,釜石,大船渡,陸前高田,気仙沼などの市や,山田,大槌,本吉,南三陸,女川などの町が発達している。気候は北部は夏季沖合に生ずる海霧におおわれて冷涼であるのに対し,南部は冬季でも季節風の影響が少なく,比較的温暖で,東北地方でも特異なタイプを示す。産業面では世界四大漁場の一つに数えられる三陸沖を舞台にマグロ,カジキ,カツオ,サンマ,イカ,サバ,イワシなどの漁業が盛んである。また古くから〈俵物(たわらもの)〉として輸出された海産物の産地の一つで,アワビ,ワカメ,コンブ,ホタテガイなどの養殖漁業も発達している。宮古,釜石,気仙沼,女川は全国屈指の水揚高をもつ漁港で,設備も整っている。日本の近代製鉄発祥の地として知られた釜石では鉄鋼業は衰退して1995年現在,一般機械工業が伸びており,宮古では食品加工と電気機械工業,大船渡では食品加工と窯業・土石業などがあり,北端の八戸地区は臨海工業地区として食品加工,パルプ・紙,ゴム製品などの集積を高めている。沿岸部の大部分は陸中海岸国立公園,南部は南三陸金華山国定公園に含まれ,なかでも北半部の北山崎,中部の浄土ヶ浜や魹ヶ崎(とどがさき),南半部の碁石海岸などは景勝である。また,アカマツ,タブノキ,シロバナシャクナゲの群落やクロコシジロウミツバメ,オオミズナギドリ,ウミネコなどの繁殖地があり,学術的にも貴重である。
この地方は津波の常襲地で,1896年6月15日,1933年3月3日の津波は,甚大な被害をあたえた(三陸沖地震)。60年のチリ地震津波以降は,津波対策が本格化し,大規模な防潮堤の建設がすすめられた。1896年三陸大津波の復興策として計画された三陸縦貫鉄道の建設は,地域住民の悲願であったが,大正末に一部開通した八戸線をはじめ,以後大船渡線,山田線などが建設されたものの建設は進まなかった。80年余を経た1984年に第三セクター〈三陸鉄道株式会社〉によって北リアス線(久慈~宮古間)と南リアス線(釜石~盛間)が開通し,JR山田線経由で久慈~盛間の直通運転もされる。これにより青森県八戸から宮城県河南町(現,石巻市)前谷地まで344kmが鉄道で結ばれた。
執筆者:川本 忠平
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青森県八戸(はちのへ)市鮫角(さめかど)から宮城県牡鹿(おしか)半島に至る海岸線。約600キロメートルの長大な海岸で、陸奥(むつ)、陸中(りくちゅう)、陸前の3国にまたがることから三陸海岸とよばれる。北上(きたかみ)高地東縁が弓なりに太平洋に張り出した海岸で、宮古市(みやこし)を境に北は隆起海岸で海成段丘が発達し、断崖(だんがい)、絶壁が多く、その間隙(かんげき)を縫うように峡谷をつくりながら注ぐ河川の河口に小漁港が点在する。これと対照的に宮古以南は沈降海岸で多くの湾入と岬とが交互に連続し、天然の良港に恵まれている。海岸は三陸復興国立公園(旧、陸中海岸国立公園および旧、南三陸金華山国定公園)に指定されている。
沖合いはクジラ、マグロ、カジキ、カツオ、サンマ、イカ、イワシなどの好漁場であり、沿岸はアワビ、ワカメ、ウニなどの養殖が盛んで、宮古、釜石(かまいし)、気仙沼(けせんぬま)、女川(おながわ)などは全国屈指の水揚高を誇る漁港である。また、釜石市の製鉄、宮古市の工業薬品や石膏(せっこう)、大船渡(おおふなと)市のセメントなど臨海工業の集積がみられる。三陸鉄道(1984年営業開始)リアス線が通じる。また鉄道に並行して国道45号が走っている。
当地域は何度も地震による大津波の被害を受けてきた。1960年(昭和35)のチリ地震津波以降、防潮堤を築くなどの防災対策がとられてきたが、2011年(平成23)の東日本大震災における被害は甚大であった。現在は防潮堤に加え、住民の高台移転、現地嵩(かさ)上げなどの対策がとられている。
[川本忠平]
…さらに東北自動車道が86年青森市まで全通,97年秋田自動車道も全通して,〈中央に遠い北国〉という古くからの課題が,ようやく克服されてきた。
[ダムと米と畜産]
岩手県は,北上川縦谷盆地(北上盆地)とそれをはさむ奥羽山脈,北上高地の3条の巨大な地形によって特色づけられ,東縁は三陸海岸線となっている。南流する北上川は一関市の南,狐禅寺付近で北上高地を横切るとき,宮城県域も含めて約25kmに及ぶ峡谷を形成している。…
※「三陸海岸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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