ツパイはマレー語でリスという意味であるが,その名が示すように,リスに似た半地上・半樹上性の小型哺乳類。キネズミともいう。1872年にT.H.ハクスリーが霊長類との類似性を指摘し,92年にカールソンが初めて霊長類の仲間として分類して以来,その系統上の位置については多くの説が提唱され,まだ統一をみるに至っていない。モグラ,ジネズミなどと同じ食虫類に含めるとする説,もっとも原始的な霊長類(霊長目原猿亜目の1下目)であるとする説,独立したツパイ目を設けるべきだとする説などがある。歯の数や形態,母指対向性,視覚の発達と嗅覚(きゆうかく)の退化は霊長類と食虫類の中間的段階にあり,また眼球を取り囲む骨の形態はきわめて霊長類的な特徴を示す。いずれにせよ,霊長類と食虫類の中間的形態をもつツパイの存在は,霊長類が樹上生活に適応した食虫類様の小型哺乳類から進化したという,今日の一般的な考え方の重要な根拠の一つとなっている。
ツパイの仲間には5属17種が含まれる。おもなものとしては,コモンツパイTupaia glis,グミーツパイDendrogale murina,フィリピンツパイUrogale everetti,エリオットツパイAnathana ellioti,ハネオツパイPtilocercus lowiiなどがある。頭胴長14~21cm,尾長13~20cm,体重120~190g。フィリピン,インドネシアから,中国南部以南の大陸部,インドにかけて生息する。ハネオツパイが夜行性であるほかは,主として早朝や夕方に活動する。昆虫などの小動物のほか,柔らかい果実も食べる。同性の個体に対して排他的ななわばりをもつ単独生活者であると考えられているが,雄のなわばりは1頭以上の雌のなわばりと大幅に重複していることが多く,空間的にはペア型ないしハレム型のまとまりが見られる。また,イチジクの実がたくさん実ったときなどには,多数のツパイがなわばりを越えて集まることもあって,社会生活の全体像に関してはまだ不明な点が多い。
執筆者:古市 剛史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱ツパイ目ツパイ科に属する動物の総称。別名キネズミまたはリスモドキ。この科Tupaiidaeの仲間は、ツパイ亜科Tupaiinaeとハネオツパイ亜科Ptilocercinaeに二分される。前者は昼行性か薄明薄暮性で、ツパイ属Tupaia、マドラスツパイ属Anathana、フィリピンツパイ属Urogale、ピグミーツパイ属Dendrogaleの4属を含み、後者はハネオツパイ属Ptilocercus1属のみで夜行性である。外見はネズミやリスに似た小動物で、古くは食虫目とみなされ、20世紀に入り霊長目に分類されるようになったが、1960年代後半以降、ツパイの系統上の位置の再検討が試みられた結果、食虫目に戻される傾向が強まった。その後、独立のツパイ目として扱われるようになった。いずれにしても、ツパイが食虫類と霊長類の中間的特徴を示していることは重要である。
インドから中国南部、東南アジアにかけて生息し、科としての分布は北緯28度~南緯9度、東経72度~127度の範囲を覆う。鼻口部は長く突出し、四肢の指はすべて鉤(かぎ)づめをもつ。大きさは種ごとに異なるが、体重は50~250グラム、頭胴長10~24センチメートル、尾もほぼ同長で11~22センチメートルあり、多くの種ではふさふさしている。体毛は灰色ないし茶褐色で、暗色や赤みを帯びたり、黒い斑点(はんてん)や明るい縞(しま)模様をもつものもある。歯式は
で38本。上顎(じょうがく)大臼歯(だいきゅうし)の形態は食虫類的である。一方、眼窩(がんか)周囲の骨が発達し、前肢第1指が他の指から分離し、嗅覚(きゅうかく)器官が退化傾向をみせ、視覚がよく発達しているなどの特徴は霊長類的である。雑食性の半地上・半樹上生活者で敏捷(びんしょう)に動き、果実、昆虫、小形爬虫(はちゅう)類などを食べる。社会構造は不明の種が多いが、コモンツパイのように、同性間は対立的で、異性間では重複するような行動域を各個体がもち、単独行動・ペア型(ないしハレム型)繁殖システムが基本的と推定される。妊娠期間は41~50日で、1産1~3子、普通は2子を産む。
[上原重男]
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