翻訳|tektite
ケイ酸を主成分(約70%)とし,水を含まない,成因の不明な天然ガラス質物質。チェコスロバキアで1900年に発見された。東南アジア,オーストラリア,アフリカ,アメリカ合衆国などの限られた地域だけで発見される。外観はボタン状や球状などが多く,直径は数cm以下。表面に流状構造を示すため,空気中を飛行したとされる。固化年代は産地ごとに異なる。成因は,宇宙物質(隕石や月など)が地表に落下したものとする考えと,地上物質(岩石や土壌)が隕石の衝突や火山噴出などで空中に放出され落下したものとする考えがある。成因を証明するため,宇宙に固有の鉱物の検出,宇宙線生成核種の検出などが試みられているが,結論は出ていない。天然ガラス質物質としては,黒曜石,パーライト,衝撃ガラスなどがある。それらと異なるおもな性質としては,水を含まない点,2価の鉄を含む点,屈折率のやや高い点などがあるが,区別は難しい。テクタイトの名前は,ギリシア語で〈溶ける〉という意味をこめて付された。中国では,10世紀のころに玻璃(はり)隕石と名付けられた記録がある。
執筆者:島 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大きさ数センチメートルの球、円盤、紡錘形をした黒褐色ガラス物質。その色および化学組成は黒曜石に似ているが、火山起源の溶岩ではなく、空中を飛行したケイ酸塩メルトの形状を示す。その産地は、地球上の限られた場所、東南アジアの一部、オーストラリアの一部、アフリカ北部、北アメリカの一部などである。それゆえ、テクタイトの起源については、かつて、隕石(いんせき)に似た地球外物質であるとか、隕石の衝突によって飛散した月面物質であるなどの外来起源説と、隕石が地球表面に衝突したときに形成されるガラス飛散物であるとする地球起源説との間に熱い論争があった。しかし現在では外来起源説を信じる者はいない。なぜならば、テクタイトには、宇宙空間飛行中に宇宙線によってつくられるはずの微弱放射能が検出されず、また大気圏突入時につくられるはずの溶けた殻もついていないからである。アポロ計画は月面にテクタイトが存在しないことを明らかにした。一方、テクタイトの産地の近くには隕石孔がある。ここで採取される衝撃ガラスの化学組成とその生成年代は、相当するテクタイトにきわめてよく似ている。
[小沼直樹]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
地球上,火山作用のない場所で発見される天然ガラス質物質.SiO2が約70% に達し,黒曜石に類似するが屈折率が異なり明瞭に区別される.いん石の一種と考えられている.小さな丸いガラス玉になって,オーストラリア,東南アジア,アフリカ,北アメリカなどで発見された.その落下を目撃したものはいない.アポロ計画によって月からもち帰った試料中にも,テクタイト状のガラス玉が発見された.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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