テクタイト(読み)てくたいと(英語表記)tektite

翻訳|tektite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「テクタイト」の意味・わかりやすい解説

テクタイト
てくたいと
tektite

大きさ数センチメートルの球、円盤紡錘形をした黒褐色ガラス物質。その色および化学組成黒曜石に似ているが、火山起源溶岩ではなく、空中を飛行したケイ酸塩メルトの形状を示す。その産地は、地球上の限られた場所、東南アジアの一部、オーストラリアの一部、アフリカ北部、北アメリカの一部などである。それゆえ、テクタイトの起源については、かつて、隕石(いんせき)に似た地球外物質であるとか、隕石の衝突によって飛散した月面物質であるなどの外来起源説と、隕石が地球表面に衝突したときに形成されるガラス飛散物であるとする地球起源説との間に熱い論争があった。しかし現在では外来起源説を信じる者はいない。なぜならば、テクタイトには、宇宙空間飛行中に宇宙線によってつくられるはずの微弱放射能が検出されず、また大気圏突入時につくられるはずの溶けた殻もついていないからである。アポロ計画は月面にテクタイトが存在しないことを明らかにした。一方、テクタイトの産地の近くには隕石孔がある。ここで採取される衝撃ガラスの化学組成とその生成年代は、相当するテクタイトにきわめてよく似ている。

[小沼直樹]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「テクタイト」の意味・わかりやすい解説

テクタイト
tektite

オーストラリア,東南アジア,アフリカ北部,北アメリカなどいくつかの限られた場所に産出する黒曜石類似の天然ガラス質の物質。外形は球,楕円,紡錘形などのほか,溶融状態のまま空中を飛行した形跡を示すボタン状のものなどがある。大きさは1~5cmのものが多い。起源については (1) 隕石のような宇宙物質である,(2) 月から飛んできた,(3) 地球の岩石の溶けたものである,などが提案されていたが,最近の隕石や月物質の研究からは,地球の岩石の溶けたものであるという考えに固まりつつある。ただし,地球の岩石がどのような機構で溶けて,テクタイトのような形をつくったものかについては定説がない。ボタン形のテクタイトはかなりの速度で空中を飛んだことを示すから,地表に隕石が衝突したときに飛び散った岩石がテクタイトになったものかもしれない。テクタイトの産出する場所の近くに大きな隕石孔のある場合もあるが,そうでない場合もあるから,テクタイトの起源のすべてを隕石衝突によるものとするわけにもいかない。語源ギリシア語の溶けたものを意味するテクトスから F.E.ジュースによって命名された。

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