改訂新版 世界大百科事典 「テソ族」の意味・わかりやすい解説
テソ族 (テソぞく)
Teso
Iteso
東アフリカ,ウガンダの中東部に住む北テソ族(約50万。1969)と,ケニア・ウガンダ国境のブシアを中心に両国にまたがって住む南テソ族(約25万。1979)から成る半農半牧民。同言語系の他の牧畜民が現在でも伝統的生活を維持しているのに対し,20世紀初頭から近代的生活様式を取り入れてきた。ウガンダでは人口第2位の部族で,大学出のエリートや軍人,警官も多い。ケニアでは少数民族として不利な立場にあるが,民族的反発も強く,国家的エリートも少数ながら出している。テソ語はカラモジョン語,トゥルカナ語などとともに中央パラ・ナイル語(東ナイル語)に分類されている。テソ族は17世紀ころ東ウガンダでカラモジョン族と分かれて南西へ移動した群を核とし,その後部分的に他部族を吸収して形成されたようである。19世紀にはその一部が南下したが,後にギス族の攻撃により分断され,南テソ族となった。
テソ族は政治的に統一されたことはなく,同族意識を共有するだけである。伝統的には首長制をもたず,軍事リーダーと夢占いをする予言者との協同,および長老集会が小地域単位の政治組織を成していた。年齢組織は儀礼を中心としたもので,一部を除き19世紀末に消滅した。100以上の父系クランがあり,大クランは分散している。大クランのサブ・クランと小クランは外婚単位を成し,少数のエタレとよばれるタブーによって婚姻を規制している。クランには政治的・経済的機能はなく,またリネージ分節体系もない。2~3世代の父系小出自集団が儀礼的共体性をもち,結婚に伴う花嫁代償の家畜(牛,ヤギ,羊)の贈与・分配の単位となる。一夫多妻制をとり,母とその子どもから成る集団は生産・消費の基本単位を成す。姻族関係は嫁を編入する多種の儀礼の協同を通して複雑に発達している。エデケという至高神の観念があるが,祭祀は行われない。呪術の観念が発達し,死や災厄の説明原理となっている。南テソ族では死霊がたたるという観念が近年強化されている。
執筆者:長島 信弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報