日本大百科全書(ニッポニカ) 「テレマックの冒険」の意味・わかりやすい解説
テレマックの冒険
てれまっくのぼうけん
Les Aventures de Télémaque
フランスの作家フェヌロンの長編小説。1699年刊。ホメロスの『オデュッセイア』第四編に想を得て書かれた。ユリシーズの息子テレマック(テレマコス)はさまざまな困難を克服しつつ父親を探し求める旅に出て、その冒険譚(たん)を語る。旅に随行するメントールは、テレマックを守護するため姿を変えた女神ミネルバにほかならないことが明らかになる。ブルゴーニュ公の教育のために書かれたものだが、フェヌロンはホメロスばかりでなく、ギリシアの詩人や歴史家の作に広く題材を求め、野心を戒め、戦争の悲惨を強調するなど、随所に政治道徳を盛り込んだ。ユートピアの黄金時代と称される18世紀には、フェヌロンのこの書は必読書として愛読され、ユートピストたちに影響を与えた。
[植田祐次]
『朝倉剛訳『テレマックの冒険』全二巻(1969・現代思潮社)』