フランスの思想家フェヌロンの教育小説。1699年刊。ルイ14世の孫で王太子のブルゴーニュ公の教育係として,教え子のために書いた,ホメロスの《オデュッセイア》に題材を仰いだ神話的物語。王子テレマック(テレマコス)が,師メントール(実は英知の女神ミネルブの化身)に導かれて,行方不明の父ユリス(オデュッセウス)を探し,辛苦を重ねたすえ,父と再会するという枠組み。教え子の王太子の古典的教養を深めるとともに,君主はどのように身を処し,国を治めるべきかという帝王学の伝授を目的としている。理想国サラント建設などを通じて,戦争反対,専制政治への非難,奢侈(しやし)をいましめ,農業に基盤をおく簡素な生活をよしとする作者の道徳的・政治的理念が,メントールの口を通して述べられる。これらは戦争,ぜいたく,快楽を好んだルイ14世の治世に対する批判にほかならなかったので,発表後国王の怒りを買い,作者の失寵の一因となった。1879年(明治12)初訳が刊行されている。
執筆者:中川 信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランスの作家フェヌロンの長編小説。1699年刊。ホメロスの『オデュッセイア』第四編に想を得て書かれた。ユリシーズの息子テレマック(テレマコス)はさまざまな困難を克服しつつ父親を探し求める旅に出て、その冒険譚(たん)を語る。旅に随行するメントールは、テレマックを守護するため姿を変えた女神ミネルバにほかならないことが明らかになる。ブルゴーニュ公の教育のために書かれたものだが、フェヌロンはホメロスばかりでなく、ギリシアの詩人や歴史家の作に広く題材を求め、野心を戒め、戦争の悲惨を強調するなど、随所に政治道徳を盛り込んだ。ユートピアの黄金時代と称される18世紀には、フェヌロンのこの書は必読書として愛読され、ユートピストたちに影響を与えた。
[植田祐次]
『朝倉剛訳『テレマックの冒険』全二巻(1969・現代思潮社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…求めに応じて書かれた《女子教育論》(1687)は,女子が自然から授かった天性を伸ばすよう説いた,この時代では斬新な見解を述べたもの。89年ルイ14世の孫で王太子のブルゴーニュ公の師傅に任ぜられ,王太子のため《寓話》《死者たちの対話》,そして有名な《テレマックの冒険》を執筆した。93年アカデミー・フランセーズ会員に選出され,95年カンブレの大司教に任じられた。…
※「テレマックの冒険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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