フランスの作家、大司教。ペリゴールの旧貴族の家に生まれる。イエズス会の学校、パリのコレージュで学んだのち、神学校で修練士となった。1668年サン・シュルピス教会助任司祭、新カトリックの会長に任ぜられ、以後1689年まで、ナントの勅令廃止で旧教徒に改宗した婦女子の教育に携わる。このころ彼はボシュエの弟子としてマントノン夫人に紹介され、ボービエ夫人Duchesse de Beauvillier(1660―1733)たちと交わり、『女子教育論』(1687)を発表する。1689年ブルゴーニュ公の師傅(しふ)に任ぜられ、1693年にはアカデミー・フランセーズ会員に選ばれるが、神秘思想キエティスム(静寂主義)の伝道者ギュイヨン夫人Mme Guyon(1648―1717)との交友を非難され、神秘思想を弁護するため『内面生活に関する聖者格言の解説』(1697)を著す。ローマ教皇はこの書に有罪判決を下し、フェヌロンをカンブレの大司教に左遷、孤独のうちに同地で没。代表作『テレマックの冒険』(1699)はこの緊張した歳月の間に書かれた。
[植田祐次 2017年12月12日]
『志村鏡一郎訳『女子教育論』(『世界教育学選集11』所収・1960・明治図書出版)』
フランスの聖職者,思想家,文学者。ペリゴール地方の名門に生まれ,パリのサン・シュルピス神学校に学び,宗門に入る。1678年プロテスタントの子女教導のためのヌーベル・カトリック修道院の院長に就任。85年ナントの王令廃止後サントンジュ地方のプロテスタント改宗指導に派遣された。求めに応じて書かれた《女子教育論》(1687)は,女子が自然から授かった天性を伸ばすよう説いた,この時代では斬新な見解を述べたもの。89年ルイ14世の孫で王太子のブルゴーニュ公の師傅に任ぜられ,王太子のため《寓話》《死者たちの対話》,そして有名な《テレマックの冒険》を執筆した。93年アカデミー・フランセーズ会員に選出され,95年カンブレの大司教に任じられた。神秘的傾向のあった彼は,ギュイヨン夫人がフランスに紹介したキエティスム(静寂主義)に共鳴し,これを告発したボシュエと論争する。やがてローマ教皇から糾弾され,加えて《テレマック》の絶対王政批判がルイ14世の怒りを買い,99年宮廷から追放,カンブレでの謹慎を命じられる。管区での布教のかたわら,政治の現状を憂えていくつかの覚書をものした。アカデミーの要請で書かれた《アカデミーへの手紙》(1716)では,古典文学を賛美しながらも,教条的批評を排し,良識と鑑識眼に基づく作品理解を説き,批評家としての力量を示した。その信仰と古典的教養による政治発言,人間の善性への信頼,柔軟な批評態度,直情的性向は,彼を18世紀を予知させる転換期の代表的存在たらしめているといえる。
執筆者:中川 信
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…広義には聖職者養成を目的とした教育を含むが,一般的には,世俗人の絶対者(神・仏)への帰依,信仰心の育成を目的とした教育をいう。宗教教育は,絶対者の前における人間の平等を教えた反面,現世の秩序・権力への服従を肯定しがちな傾向を示した。学校における宗教教育の位置づけは,(1)教育の最高目標,(2)諸教科のなかの一つ,(3)学校教育からの排除(教育の世俗化)の三つに大きく分けられるが,近代学校では(1)(2)から(3)への移行が世界的流れといえる。…
…狭義には学校における女子の教育をさすが,広義には家庭教育や社会教育における女子教育を含んでいる。男子の教育と区別される女子教育の歴史的形成にはそれなりの理由があった。女子は男子より能力が劣るから低度の教育でよいとする差別的な考え,女子と男子とでは肉体的生理的差異があるのでそれに適した教育が必要だとする考え,女子と男子の社会的役割が異なるからその役割に応じた教育がたいせつとする考えなどがその背景となっている。…
…フランスの思想家フェヌロンの教育小説。1699年刊。ルイ14世の孫で王太子のブルゴーニュ公の教育係として,教え子のために書いた,ホメロスの《オデュッセイア》に題材を仰いだ神話的物語。王子テレマック(テレマコス)が,師メントール(実は英知の女神ミネルブの化身)に導かれて,行方不明の父ユリス(オデュッセウス)を探し,辛苦を重ねたすえ,父と再会するという枠組み。教え子の王太子の古典的教養を深めるとともに,君主はどのように身を処し,国を治めるべきかという帝王学の伝授を目的としている。…
※「フェヌロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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