日本大百科全書(ニッポニカ) 「テングサケヤシ」の意味・わかりやすい解説
テングサケヤシ
てんぐさけやし
burity palm
[学] Mauritia flexuosa L. f.
Mauritia vinifera Mart.
ヤシ科(APG分類:ヤシ科)テングヤシ属16種中の1種。オオミテングヤシともいう。属名はブラジルの植物学者Maurits von Nassauにちなみ、種名はラテン語で酒をつくるという意味である。ブラジル原産。幹は単一で直立し、高さ25メートル、径80センチメートルの大形ヤシ。幹肌に浅い波状環紋の葉痕(ようこん)が残る。葉は光沢のある濃緑色、掌状葉で直径5メートル。中軸は長さ1メートル、裂片は170枚あり、中央片は長さ1.8メートル、幅6.5センチメートルである。葉柄の断面は円く、長さ4メートル、径20センチメートル。葉柄基部の葉鞘(ようしょう)は70センチメートル。花は肉穂花序につき、淡褐色。雌雄異株。雄株には雄花がつき、雌株には雌花と両性花が雑居する。雄しべは花糸が短く、葯(やく)は細長い。花は淡褐色、紡錘形で長さ1.2センチメートル。果実は楕円(だえん)形、長さ5.5センチメートルで、光沢のある褐色の鱗片(りんぺん)で覆われる。種子は球形で褐色、長さ2センチメートル、径3センチメートル。丁字状に曲がったひもが球面に沿って突き出ている。胚乳(はいにゅう)は淡黄色で、胚は斜め下にある。花柄の樹液から酒をつくる。幹のデンプンでパンをつくり、果実の中果皮を食用にする。葉の繊維は織物にする。湿地に群生し、栽培最低温度は13℃を要する。
[佐竹利彦 2019年4月16日]