改訂新版 世界大百科事典 「テンツキ」の意味・わかりやすい解説
テンツキ
Fimbristylis dichotoma (L.) Vahl
主として水田のあぜや日当りの良い湿った土地,さらに畑地の溝などによく見るカヤツリグサ科の雑草。細い一年草で,ひげ根のある小さな株を作る。葉は根生し,幅1~2mmの線形で,先端は鈍く,多少毛がある。茎は高さ20~40cm,細く,9~10月に頂に2~4枚の葉状の苞と,1~5本の枝のある散形花序をつける。小穂は十数個かそれ以上の数でまばらにつき,おのおの長さ8mm前後の卵形で,茶色を帯びる。小穂の鱗片の内側に両性花があり,果実は前後に扁平のレンズ形で,黄白色の表皮に虫めがねで見える格子状の紋がある。柱頭は2個,花柱の縁に羽毛状の毛がある。
世界中の温帯から熱帯にかけて分布する雑草で,変異が多い。日本の北海道から九州まで,さらに中国には基本型のものが分布するが,沖縄から東南アジアにかけては穂の数の多い越年生のクグテンツキf.floribunda Ohwiがある。
テンツキ属Fimbristylisはカヤツリグサ科の大きな属の一つで,世界に300種余りあり,東南アジアを中心に分布する。日本はこの属の分布域の北端で,18種を産する。主なものとして,ヒデリコF.miliacea(L.)Vahlはイネを刈り取った後の田んぼに無数の小さな茶色の小穂を星のようにつけ,葉が淡緑色でアイリスのように左右から扁平の線形をしているのでわかりやすく,また,同じく水田のあぜや湿地に見かけるヤマイF.tristachya R.Br.ssp.subbispicata (Nees et Mey.) T.Koyamaは細い茎の頂にただ1個の小穂をつけるのが特徴的である。小型で黄褐色の小穂のアゼテンツキF.squarrosa Vahlや,全体緑色のアオテンツキF.dipsacea C.B.Clarke ssp.verrucifera (Maxim.) T.Koyamaも水田の雑草である。海岸砂地生のビロードテンツキF.sericea R.Br.の葉は銀白色の毛でおおわれている。テンツキ属は熱帯アジア産のごく一部の種がマットや編物の原料に利用されている。とくに重要ではない。
ハタガヤ属Bulbostylisはテンツキ属に酷似しているが,花柱の基部がこぶとなり果実の頭に宿存する点が異なる。毛のように細い草で,花序はテンツキ類と大同小異で,主としてアフリカと南アメリカのサバンナ草原に50種くらいが分布する。日本には本州以南の海岸砂地に見られるハタガヤB.barbata (Rottb.) C.B.Clarkeと山地生のイトテンツキB.densa (Wall.) Hand.-Mazz.の2種がある。
執筆者:小山 鐵夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報