日本大百科全書(ニッポニカ) 「テントウムシ」の意味・わかりやすい解説
テントウムシ
てんとうむし / 瓢虫
天道虫
[学] Harmonia axyridis
昆虫綱甲虫目テントウムシ科に属する昆虫。一名ナミテントウ。日本各地のほか、樺太(からふと)(サハリン)、朝鮮半島、シベリア、中国、台湾にも分布する。体長7~8ミリメートル。ほぼ半球形、背面は光沢があり、赤色ないし橙(だいだい)色に黒い点紋のある個体から、黒地に橙色の斑紋(はんもん)があるものまでいろいろな型がある。幼虫は長くて後方へ細まり、胸や腹の背面に突起をもち、灰黒紫色で両側に橙色紋があって成虫と似ても似つかないが、成虫も幼虫もアブラムシ類を捕食する益虫で、捕まえると黄色の臭い液を出す。卵は紡錘形で黄色、20~30粒ずつ固めて葉上に産み付けられる。年に数回世代を繰り返し、成虫で越冬する。近年、ミツバチの雄バチの幼虫や蛹(さなぎ)を使った餌(えさ)でテントウムシを飼育することが試みられ、成功しているので、アブラムシの駆除に利用できるようになるかもしれない。なお、マツなど針葉樹につくアブラムシを食べるクリサキテントウH. yedoensisは、テントウムシと外見から区別しがたいほどよく似ているが、幼虫の色彩が異なっている。
テントウムシ科lady bird, lady beetle, lady bug/Coccinellidaeは、およそ5000を超える種類が知られ、広く世界各地に分布し、日本でも160種前後が記録されている。体長0.8~18ミリメートル、中形から小形の甲虫。まれに長卵形の種類もあるが、半球形に近いものがほとんどである。触角は短くて先端へすこし広がり、肢(あし)の跗節(ふせつ)は4節であるが、第3節は微小なので3節にみえる。第1腹節には両側に弧状の条線があり、科の重要な特徴になる。大部分の種類はテントウムシ亜科Coccinellinaeに属し、成幼虫とも肉食でアブラムシ、カイガラムシ、ハダニなどの害虫を捕食し天敵として人間に有益なものが多く、ベダリヤテントウやクリプトテントウのようにカイガラムシ駆除のためオーストラリアから移入されたものもある。ベダリヤテントウは、ミカンにつくイセリヤカイガラムシ駆除のため世界各地で利用され、日本にも1910年(明治43)に移入された。日本の在来種ではテントウムシ、ナナホシテントウ、ヒメカメノコテントウなどがアブラムシを、ヒメアカボシテントウがマルカイガラ類を、アカボシテントウがカタカイガラ類をおもに捕食し、小さなヒメテントウ類などもアブラムシ、カイガラムシ、ハダニの駆除に役だっている。大形のカメノコテントウなどはハムシ類の幼虫をよく捕食する。キイロテントウ類やシロホシテントウ類は食菌性で、樹葉につくウドンコビョウキンを食べるといわれる。海外にはウシやウマの糞(ふん)の中で育つものや、アリ、ハリナシミツバチの巣中で成育するものがある。一般によく知られるのはテントウムシ、ナナホシテントウなどこの亜科の中形種で、愛らしい姿と形、行動によって古くから親しまれ、童話や童謡、図案、装飾などに用いられている。テントウムシの名は、枝などの先に登り、太陽に向かって飛び立つことから名づけられたともいう。
マダラテントウムシ亜科Epilachninaeに属する種類は一般に中形で、背面に短毛が生えていて光沢が鈍く、食葉性であるため害虫とされるものが少なくない。ナスなどにつくニジュウヤホシテントウ、ジャガイモにつくオオニジュウヤホシテントウはとくに有名で、ほかにウリ類を食害する種類もあり、熱帯地域に多い。幼虫は体がずんぐりしていて棘(きょく)状突起や剛毛あるいはこぶ状隆起などを備え、成虫とともに葉肉を食害して葉を網目状にする。コブオオニジュウヤホシテントウはオオニジュウヤホシテントウとごく近縁であるが、アザミを食べており、ほかの1、2の近縁種も含め分類・生態面で複雑な一群をつくっている。
[中根猛彦]