日本大百科全書(ニッポニカ) 「デーメルト」の意味・わかりやすい解説
デーメルト
でーめると
Hans Georg Dehmelt
(1922―2017)
アメリカの物理学者。ドイツのゲルリッツに生まれる。ベルリンのギムナジウムを1940年に卒業後、陸軍に入隊し、一時期ブレスラウ大学(現、ポーランドのブロツワフ大学)で物理学を学んだのち、西部戦線に送られてアメリカ軍の捕虜となった。第二次世界大戦終了後、ゲッティンゲン大学に入り、1950年に博士号を取得した。1952年アメリカに渡り、デューク大学で博士研究員として研究を続け、1955年にワシントン大学の客員助教授となった。1956年同大学準教授、1961年教授に昇格、アメリカの市民権も獲得した。
ゲッティンゲン大学でW・パウルに実験物理学を学び、のちに磁気共鳴現象、とくに電子スピン共鳴の研究を進めた。1955年から電子を捕捉(ほそく)する実験の研究を開始し、やがてパウルの開発したイオンを捕捉する装置(パウル・トラップ)にヒントを得て、1973年に電子を1個のレベルで分離、捕獲する装置(ペニング・トラップ)の開発に成功、この装置を用いて電子の磁気モーメントを高精度で測定した。さらに高精度の周波数標準器(原子時計)作成が可能となり、原子分光学の分野で画期的成果をもたらした。この業績により、1989年のノーベル物理学賞をパウルとともに受賞、分離振動場法を開発したN・F・ラムゼーも同時受賞した。
[編集部 2018年9月19日]